米で社会現象に 映画「アメリカン・スナイパー」が描いた戦争
今週末に日本公開されるクリント・イーストウッド監督最新作「アメリカン・スナイパー」(14年、米)が大ブームの予感だ。アカデミー作品賞、主演男優賞ほか計6部門にノミネートされた質の高さもさることながら、すでに本国では興収300億円を悠々突破。戦争映画としては類を見ない大ヒットとなっている。
150人以上の戦績を誇る米海軍の伝説的狙撃手クリス・カイルの回顧録を基にした戦争ドラマ。03年のイラク戦争以降、妻子が待つ自宅と最前線を4度往復した彼の壮絶なる戦場体験が、容赦ない緊張感で描かれている。
物語は、人並み外れた強さと愛国心を持つクリスが、「か弱き羊を守る牧羊犬たれ」との父親の教え通りに海軍に志願する展開。だが鬼神のごときこの男でさえ、必要とあらば女子供をも撃ち殺さねばならぬ戦場の理不尽に、徐々に心を削り取られてゆく。
「アメリカの正義」のおぞましい現実を前に打ち砕かれる一人の愛国者の悲劇というわけだが、こうした反戦的なテーマを保守派とされるイーストウッドが堂々と発した点に注目したい。クリスが追う敵が、今まさにアメリカが戦っているイスラム国の母体を築いたザルカウィ一派である点も強烈な皮肉といえるだろう。原作者クリス本人が協力した映画でありながら、彼を英雄でなく被害者として扱った点も勇気ある態度だ。