アメリカン・ファクトリーが描くトランプに不都合な真実
コロナ自粛で動画配信サービスにハマる人が続出する中、オバマ前大統領夫妻が共同製作したNetflixオリジナルのドキュメンタリー映画「アメリカン・ファクトリー」(劇場未公開、米)が話題を呼んでいる。
熱心な市民活動でも知られるミシェル夫人が、さまざまな社会問題を人々に伝えるため、夫と設立したハイヤー・グラウンド・プロダクションズによる初配信作で、閉鎖されたGM(ゼネラル・モーターズ)の工場を中国企業が買い取った後の顛末を生々しく描く。その話題性について、映画批評家の前田有一氏が語る。
「Netflixが視聴できない中国でも大勢が違法に視聴したことで話題になりました。トランプ大統領は米中貿易戦争などとあおり立てますが、米本土で雇用創出しているのは中国企業という現実。この映画はその矛盾を象徴する最前線のオハイオ州の工場で、中国人上司と米国人労働者の協働関係がいかに築かれ、崩壊に向かうかをまるで劇映画のようにエキサイティングに見せてくれます」
各国の映画祭でも絶賛され、昨年の米アカデミー長編ドキュメンタリー賞も受賞。監督のスティーブン・ボグナーとジュリア・ライカートは、過去にGM工場閉鎖までを描いた短編を撮った経歴を持つという。本作では、GM時代からの古い労働者たちの本音や内密の会議風景、中国企業会長のボヤキなどディープな部分までカメラに収めるほどの取材力を見せている。くだんの中国企業は、当初は古き良き米国式の労働文化を尊重していたものの、業績悪化とともに長時間労働や安全無視などブラック体質をあらわにする。そうした展開から、反中映画かと揶揄する声もあった。