坂本冬美さん思い出の食べ物 母親が作った「甘く炊いた高野豆腐」をハイハイする頃から

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坂本冬美さん(歌手/55歳)

 2年前には桑田佳祐作詞&作曲の「ブッダのように私は死んだ」で話題をさらった歌手の坂本冬美さん。今週25日には新曲「酔中花」を発売したばかり。高野山の地元の和歌山で育った坂本さんにとって今も思い出の食べ物は高野豆腐だ。

 ◇  ◇  ◇

 和歌山は高野山の土地柄ですから、子供の頃から高野豆腐を食べて育ちました。

 うちの母は甘く煮ていましたね。高野豆腐を水につけて戻し、しっかり水気を切ってくさみを取り、お水で煮て沸騰したら砂糖を多めに入れて軟らかく炊く。そうすると煮崩れしないし、高野豆腐は煮方によってはキュッキュッという噛み心地になるけど、それもないですね。醤油と塩はちょこっと。醤油は薄く色がつくくらいの感じで。

 散らすのはエンドウ豆です。見た目も色鮮やかになります。子供の時の私はそれに卵を落として卵とじにしてもらうのが好きでした。

 和歌山ではほうじ粉茶で作る茶粥を食べる習慣があります。週2回は茶粥で高野豆腐を食べていました。

 離乳食というわけではないけど、ハイハイをする頃から食べさせられた気がします。それくらい馴染みのある食べ物なので、今も食欲がない時とか、和歌山からパックで売っているほうじ粉茶を送ってもらって、茶粥と高野豆腐を自分で作って食べます。このセットは私にとっては最高のごちそうです。

ポンポン船を走らせタチウオを釣っていた両親

 きょうだいは3つ上の姉、2つ下の弟です。母は若くして子供を3人産みました。私は母が21歳の時の子供です。父親は建築関係の仕事をしていましたが、鉄砲玉みたいな人で一度家を出ると出っ放しということもしょっちゅう。自由人ですね(笑)。母は3人の子供を抱え、働きづめで大変だったと思います。動いていない母を見たことがありません。だからお仕置きで陶器の重たい灰皿を持たされたりすることもあったし、厳しかった。そんな時は怖かったですね。

 楽しい思い出もありますよ。

 郷里の上富田町は田辺や白浜に近く、10分くらい行くと海が見えるところです。父は釣りが好きでタチウオ、アジ、クロダイとかをよく釣っていました。ポンポン船も持っていたんですよ。父と母が船を走らせながらタチウオを釣るのを、そばで見ていると、ピョンとタチウオが上がって、キラキラしてきれいだったのを覚えています。

 母には青春時代があったのかと思っていた時期もあります。歌手になって大勢の歌手が一緒に出るコンサートに呼んだことがありました。それに加山雄三さんが出演なさっていました。その時に「お母ちゃんの青春時代や」と言うのを初めて聞いて、母にもそんな時代があったのかとホロッとしてしまいました。

 母は放任主義のところがあって、歌手になることには反対しませんでした。猪俣公章先生(作曲家)の内弟子に入りましたが、どうせうまくいくわけがない、すぐに帰ってくるだろうと思っていたみたいです。でも、なんとかデビューできて喜んでくれました。

母にもまた作って食べさせてあげたい

 私は2002年に一度歌手を休業しました。その時は「長い間、ご苦労さまでした」と言われました。母はそのままお嫁に行ってくれたらと思っていたみたいですね。ただ、ボーッとしている娘を見て心配になったみたいで、たまたま二葉百合子先生がテレビに出ているのを教えてくれて、それを見た私が先生に手紙を書いたことが復帰するきっかけになりました。

 母はここ数年、入退院を繰り返していて、今も入院中です。体を悪くしてからは毎月心配で会いに帰っていました。今はこういう時期なので、なかなかお見舞いにも行けません。今年の正月に帰った時は元日から入院しちゃって。退院したばかりだったのに……。でも、15分だけ面会して「また明日来るからね」と言って別れました。会いたい時はスマホでテレビ電話にして話します。「あなたのかわいい娘よ、55歳だけどね」と言ったら笑っていました(笑)。

 コロナ前は家に帰ると私が料理を作ってあげていました。もちろん母の味で。高野豆腐も作りました。「おいしい」「おいしい」と言って食べてくれました。できればまた作って食べさせてあげたいですね。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ

■新曲「酔中花」(5月25日リリース)

 2年前に出した「ブッダのように私は死んだ」は桑田佳祐さんにお願いして書いていただきました。これまで見たことも聞いたこともない世界観の曲です。それまでは演歌歌手として殻を破ることができない自分がいましたが、「ブッダ」をいただいたことで、その殻を破ることができた。

 新曲「酔中花」は吉田旺先生が歌詞を書いてくださいましたが、愛してはいけない人を愛してしまう男女の物語です。以前の私ならそんな女性を演じることはできなかった。「ブッダ」の後だからこの歌を歌うことができたと思うし、大人の歌を歌うことができてとてもうれしいです。(5月26日に東京・羽田空港で生配信ライブを開催、「酔中花」を披露した)

■明治座公演「坂本冬美オンステージ2022」(9月20日~10月18日)
第1部はお芝居「いくじなし」、第2部「艶歌(うた)の桜道(はなみち)」は中村雅俊がスペシャルゲスト

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