トイレ掃除に打ち込む独身男の“悟りの境地”『PERFECT DAYS』ラストの笑みは何を物語るのか?
ラストは平山が昇りくる日差しを浴びながらクルマを運転する場面。カメラは2分あまりに渡って平山をアップでとらえる。その表情は複雑だ。
筆者は平山の表情にまず、病身の元夫への同情と、ママが自分のものになりつつあるという安堵の喜びを見る。2人が抱擁している姿に一旦は意気消沈したが、元夫は命の限界を悟ってママを引き渡してくれた。その喜びである。同時に「こんなことを喜んでいいのかな」という自責の念も感じられる。「俺って少しずるくないか?」と言いたそうな照れ笑い。
この場面で初めて平山の顔が太陽に照らされる。まるで「お日様よ、あまり見つめられると恥ずかしいよ」と言いそうな苦笑いだ。
彼が何を考えていたのかは分からない。分からないが、今日も朝日は昇り、街は色づいて新しい一日が始まるのだった。
(文=森田健司)