トイレ掃除に打ち込む独身男の“悟りの境地”『PERFECT DAYS』ラストの笑みは何を物語るのか?
ニコと一緒に橋の上で自転車を止め、景色を見つめる情景こそが小津安二郎好きのヴェンダース監督の真骨頂だ。「今度は今度。今は今」と歌いながら自転車をこぐニコの後ろ姿に涙が出る。今の先に今度がある。これからも続くニコとの時間の継続を感じさせる名場面である。
残念なのはヴェンダース監督が平山を「かつては有能なビジネスマンだった」と規定したことだ。これは必要なかった。
筆者は監督の説明を聞く前に本作を見た。ストーリーを追いながら、平山を大企業の御曹司で父親に反発してセレブな地位を捨てたのかもしれないと思った。あるいは大病院の2代目医院長、または文学を教える大学教授だったとも考えた。元ビジネスマンとネタばらしをせず、観客に想像する楽しみを与えたほうが良かったと思うのだ。
この物語の最大の変化は居酒屋のママと平山の関わり合いだ。週に一度、居酒屋を訪れるときだけ腕時計を身に着けてアパートを出る。精いっぱいのオシャレなのだろう。そこにはママに対する密かな思いが込められている。ママも平山に対してまんざらでもない様子だ。