トイレ掃除に打ち込む独身男の“悟りの境地”『PERFECT DAYS』ラストの笑みは何を物語るのか?
この映画は殺人事件も熱烈なラブシーンもなく、ただ時間が流れていく。単調な展開だが、飽きることはない。気がついたら124分が経過していた。そんな密度の濃い作品だ。
平山は毎朝明るくなった空を眩しそうに見上げ、同じ缶コーヒーを買って清掃作業に出かける。仕事場では「そこまでやるの?」と言いたくなるほど丁寧に便器を磨き上げる。トイレを介して見知らぬ誰かと三目並べを楽しむことも。仕事終わりには浅草駅地下の居酒屋に立ち寄り、店主の「おかえり」「おつかれさま」の言葉に癒されつつチューハイを飲む。
昨日と変わらない日々の連続。彼は何者で、なぜこの暮らしを続けているのか。
ヴェンダース監督は平山の過去を「有能なビジネスマンで、酒も大いに飲んだ」と説明。僧侶をヒントにこの人物造形を考案したという。
平山の素性は劇中で明かされないが、家出してきたニコを妹(麻生祐未)が迎えに来る場面にヒントがある。妹は運転手付きの黒塗りの高級車でアパートに乗りつけ、「本当に清掃の仕事をしてるの?」と呆れたように言い、父親が存命であることを告げる。平山と父親の間に何らかの確執があったようだ。