医療が介入しないと納得しない風潮に問題がある
死を知らなければ自分もひどいことになる
老衰死を迎える虚弱高齢者は、数年前から食べても身につかなくなる。それが明らかになっているにもかかわらず、なぜ介護の現場では最後に病院に搬送し、亡くなるまで食べさせよう、飲ませようと努力するのか。
「こういう世の中ですから、『病院に任せてもこれ以上は無理』とわかっていても、介護の現場ではやらざるを得ないという立場になるのでしょう」
こう言うのは、看護師として病院や特別養護老人ホームなどで働いた経験を持つ、東京有明医療大学看護学部の川上嘉明准教授だ。川上准教授は高齢者の栄養摂取カロリーと体重減少の関係を調べている研究者で、「特別養護老人ホームの高齢者におけるBMIを用いた死期の推定」などの研究論文を発表している。
高齢者の多くは、亡くなる前に老人ホームや老人保健施設などに入所している。これらの施設では、本人が老衰死を望んでいたとしても119番通報して、病院に任せる事例は珍しくないという。
「がんなら最後まで自分の意思が表示できるため、自分の死について希望が言えます。ところが、虚弱高齢者は亡くなる間際に自分の意思を表示できなくなることが多い。結局、代理判断する家族や親戚を納得させられるだけの根拠が欲しいのです。それには、『病院に送ったのですがダメでした。手を尽くしたのですが……』といったように、『ある程度、医療が介入したが回復しなかった』と言えるプロセスが大切だと述べる施設関係者もいます」