不妊治療 助成金制度から所得制限が外れ事実婚も対象に
子づくりに励んでいるのになかなか子宝に恵まれない。そんな妊活カップルにとって不妊治療は、受けたいけれど簡単には手を出しづらい治療だ。一度始めたら簡単にやめられないし自由診療であるため病院ごとの費用が異なりわかりづらい。
そもそも治療費が高いイメージがある。しかし、費用については徐々にではあるがハードルが下がり、使いやすくなりつつある。来年にはその一部が公的保険の対象となる予定だが、すでに今年1月から地方自治体の不妊治療助成制度が変わり、所得制限が撤廃されるなどより受けやすくなっている。
男性不妊治療の第一人者である東邦大学医学部泌尿器科学講座の小林秀行准教授に解説してもらった。
「体外受精および顕微授精といった特定不妊治療は高額な費用がかかるうえ、一度で結果が出るとは限らず、躊躇していた夫婦もいるかと思います。そのため、以前から特定不妊治療費助成制度(不妊治療助成金)と呼ばれる不妊治療費用の一部が助成される制度がありました。ただ、利用するには所得制限という大きな壁がありました。夫婦での合算の所得が730万円未満しかこの助成金制度は使えなかったのです(東京都の場合は905万円未満)。しかし、2021年1月1日から制度が大きく変更。助成の対象が治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦に変更はありませんが、所得制限が撤廃されました。つまり、夫婦の合算した所得に関係なく、この助成金制度を利用できるようになったのです。この変更点はまだ知らない方も多い。費用面で考えると今が不妊治療を始めるチャンスなのです」
しかも、今回の助成金制度の変更は事実婚の夫婦でも同様に給付を受けられる。
■実質自己負担なしの受診も可能に
「変わった点はそれだけじゃありません。不妊治療は自由診療で病院ごとに費用が異なりわかりにくかった。その点も改善され、費用の目安がわかりやすくなりました。ご存じの方も多いでしょうが、政府は2022年4月から不妊治療の保険適用の拡大を目指しています。そのため、厚生労働省が当事者の経済的負担などについて初めて実態調査を行ったからです」
このうち体外受精にかかる費用は1回当たり約50万円だったが、医療機関によっては約100万円のところも複数あり、医療機関の間で大きな差があることがわかった。同時に実施した当事者調査では体外受精を平均3・7回受けていることも明らかになった。
男性不妊症に関しては、検査費用が約4万5000円程度であり、無精子症の手術費用のおおよその実態もわかった。
「無精子症の場合、精巣で精子は作られるもののその通り道が何らかの原因で閉塞しているものを『閉塞性(OA)』と呼び、通り道に問題はないが精子がほぼ作られていないものを『非閉塞性(NOA)』と呼びます。どちらも治療には精巣内精子採取術(TESE)を行います。ただ、OA患者は陰嚢を皮膚切開して精巣の白膜を切り開き、その組織の一部を採取する『シンプルTESE』を施行します。調査の結果、その費用は約19万円でした」
一方、NOA患者は精巣の白膜を大きく開いて手術用顕微鏡で精巣内をくまなく探索して精子を回収する「マイクロTESE」を施行する。調査の結果、こちらの手術費用は約32万円だった。
「ところが、これまでの特定不妊治療費助成金は初回が30万円で、2回目以降は15万円の給付内容でした。そのため、助成金で手術費用をカバーすることはできませんでした。今回の改正では、給付の内容も変更し、TESEを1子につき6回以内なら1回につき30万円が給付されるようになりました(妻年齢40歳以上43歳未満の場合は通算3回まで)。また、妻の年齢が43歳未満であれば、これまでもそうですが男性に年齢制限はありません。つまり『シンプルTESE』の場合、手術費用は約19万円かかりますが、助成金制度によって、実質、自己負担なしで受けることができます。ただし、TESEで精子が採取できた場合でも、採卵を実施していない場合は助成金制度の対象外となるので注意が必要です」
2021年1月1日以降の不妊治療の助成金制度の拡充は、妊娠を希望するカップルにとって大きなメリットだ。活用しない手はない。