ピロリ菌除菌後も胃がんのリスクがある!?
厚生労働省が発表した統計によると2019年の日本人の死因第1位は「がん」で、中でも「胃がん」による死亡者は以前よりも多少減っているとはいえ、それでも年間4万2931人もの多くの人が命を落とす疾病となっている。最近では胃がんの原因として知られる細菌「ピロリ菌」の除菌をする人も増えてきたが、除菌に成功しても胃がんに罹患する可能性はゼロではないという。ではどうしたらいいのか取材してみた。
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1982年に発見されたピロリ菌は胃の粘膜に生息する螺旋状の細菌。世界中の約半数の人が感染しており、日本では若年層での感染は減少しているものの中高年層では半数近くが感染。しかも、日本人の胃がんの90%以上がピロリ菌感染によって引き起こされているばかりか、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃ポリープなどさまざまな疾患にピロリ菌が関わっているというから何とも厄介な細菌といわざるを得ないだろう。
ピロリ菌の除菌は2000年に胃・十二指腸潰瘍が保険適用になり、2013年に慢性胃炎に適用が拡大されて以来、除菌治療をする人が増えているが、東海大学医学部消化器内科客員教授で日本プロバイオティクス学会理事長の古賀泰裕氏は、
「ピロリ菌の除菌治療が普及する中、胃がんの患者数や死亡者数が大幅に減少するのではないかと思われていました。ところが、最新の研究結果では除菌治療による胃がん抑制効果は期待されていたほどではなく、除菌後も胃がん発生のリスクは少なくないことが指摘されています。除菌治療による胃がん発生率の変化を調べた国内の研究によると、ピロリ菌感染者で除菌しなかった場合の胃がん発生率は年間0.5%、一方で除菌した人たちを20年間観察した胃がん発生率は年間0.35%。除菌しなかった場合と比べて3割ほどしか減りませんでした」
と説明する。
ピロリ菌に感染すると例外なく慢性胃炎を発症
そもそもピロリ菌に感染すると誰もが例外なく数週間から数カ月で慢性胃炎を発症する。これが加齢とともに次第に進行し、多くの場合、胃の粘膜が薄くなる「萎縮性胃炎」と呼ばれる状態に陥る。萎縮した胃粘膜では、胃酸の分泌が少なくなるため、酸性度が低下して本来生息できないはずの様々な細菌が胃内で増加してしまうという。中でも、発がん促進物質LPSを菌体成分とする「グラム陰性菌」が増殖する。それがLPSを放出することでピロリ菌のいなくなった胃粘膜にがんを引き起こす可能性があると、古賀氏は指摘する。実際に、古賀氏の研究では、ピロリ菌感染により萎縮性胃炎を患い、さらに胃液の酸性度が低い人は胃液内のLPS活性が高かったという。
つまり、ピロリ菌除菌後の胃がん発生を防ぐためには胃酸の酸性度を正常に保つこと、それが重要になるというわけだ。
こうした中にあって古賀氏が注目しているのが、乳酸を分泌することでピロリ菌の数を減らしたり、胃粘膜の炎症を抑えたりする作用を持つことが知られている「LG21乳酸菌」だ。
古賀氏の研究では、酸性度がpH5~7と弱く、LPS活性が比較的高い胃液を持つ40~50歳代の男女10人の被験者にLG21乳酸菌の入ったヨーグルトを1日1個、3カ月にわたって摂取してもらうというものだった。すると、
「3カ月後に再度胃液を採取して乳酸菌摂取前との変化を調べたところ、10人のうち8人で胃液の酸性度がpH3以下まで回復するとともに、これらの人では胃液中のLPSがほとんど検出できないまでに減少していることが分かりました。このことから、LG21乳酸菌は酸性度の弱い胃の状態を改善し、発がん促進物質であるLPS活性を低下させることによってピロリ菌除菌後の胃の健康管理に大いに役立つことが期待できるのではないかと思いますね」(古賀氏)
年に一度は内視鏡検査を!
日本では依然として胃がんによる死亡者が多いとはいうものの、医学が進んだ現代では胃がんは早期であれば内視鏡で見つけて、そのまま切除することで完治が望める疾患となっている。その点を踏まえて古賀氏も、
「ピロリ菌に感染していることが分かったら除菌することが必要です。もちろん除菌に成功しても発生のリスクはありますが、定期的に、できれば年に一度は内視鏡検査を受けることが除菌後の最も適切な胃がん対策だと思いますね。またこういった乳酸菌を活用することも有効ではないか」
とアドバイスする。
人生100年時代の今、いつまでも健やかに暮らすためには、胃がんの魔の手からいかにして逃れるかが大きなポイントになるだろう。それだけに日頃から常に胃の健康を意識しておきたいものだ。