高齢者の再手術は初回からの期間が短いと「癒着剥離」の難度が上がる
癒着剥離に関しては、外科医によってさまざまな考え方ややり方がありますが、私は、高校で習う「微分」をいちばん応用できる部分だと考えています。微分というのは、簡単に言えば、ある曲線(たとえば放物線)上の2点=一区間の接線の傾きを求めるものです。接線とは、曲線と限りなく接している、曲線上の2点を結んだ直線を指します。
癒着剥離は、癒着している部分とそうでない部分の境目=接線を見極め、接線に沿って剥離していけば臓器や血管にダメージを与えることはありません。臓器や血管の形状と癒着部分を一区間一区間で切り取り、傾きがどうなっていて、接線がどの方向に向いているのかを判断できれば、誤って臓器や血管を傷つけることなく進めていけるのです。もともとの臓器や血管の基本的な構造が頭に入っていれば、仮に初回の手術で切除して縫合された形になっていたとしても、一区間一区間でしっかり微分の考え方を応用することで、的確に癒着を処置できるということです。
このように、「癒着も理詰めできちんと対応できる」ということを自分で確信できていると、癒着剥離に対する怖さがなくなります。怖さがなくなれば、躊躇することなく果敢に勇気を持って処置にあたれますし、それだけ手術の“完成度”も高くなります。