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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

急増中の「梅毒」は心臓にどんなトラブルを引き起こすのか

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心血管梅毒だった患者の緊急手術も経験した

 心血管梅毒の患者さんや、心臓手術を予定している患者さんが梅毒に感染していた場合、早急に梅毒トレポネーマを駆逐しなければなりません。まずは感染症の専門科に相談して梅毒の治療を行い、完治してからあらためて手術を実施する流れになります。

 いまから30年以上前、房総の海沿いにある病院に勤務していた頃は、梅毒血清反応が陽性の患者さんを目にする機会がよくあって、実際に感染していた患者さんの手術を実施した経験があります。若い頃に感染した後、20~30年の潜伏期を経て心血管梅毒が生じ、大動脈瘤から大動脈解離を起こしたり、大動脈弁狭窄症や急性冠症候群となって手術になるケースもありました。

 中でも、心血管梅毒が慢性の大動脈炎として進行すると、大動脈基部(大動脈弁とその周辺の大動脈)から分岐する冠動脈が入り口の部分で高度狭窄(血管の狭窄率が70%以上)を示すため、緊急手術が必要になります。その際、当時は一般的だった大伏在静脈グラフトをバイパス血管として使用した結果、術後に炎症性の大動脈と吻合した部分が再狭窄を起こし、また緊急で再手術になるケースも経験しました。

 そういった心血管梅毒の患者さんの心臓手術後は、梅毒治療に有効なペニシリンGを投与していました。当時、その病院には感染症の専門医がいなかったので、投与期間などを文献で調べ、手探りで対応した記憶があります。また、血液検査で梅毒血清反応を確認し、まだ感染力がある場合には、術前にやはりペニシリンGを約1カ月間投与してから手術に持ち込んでいました。近年と違って、ゆったりとした治療期間をとって対応していました。

 患者さんが梅毒に感染したままの状態で手術を行うと、医療者側に感染するリスクがありますし、院内感染にもつながりかねません。また、手術を受けると患者さんの抵抗力が一時的に衰えるため、感染があると病状が悪化したり、他の合併症にもかかるリスクが上がってしまいます。

 そうしたことから、かつては梅毒が院内感染の要因として最も警戒され、術前のスクリーニング検査が重視されていました。それが、感染者が激減したことで近年はそれほど注意されなくなり、一時期は「TPHA法」と呼ばれる血清検査で抗原抗体反応を見て、梅毒の既往があるかどうかを含めて確認するだけにとどまっていました。しかし、最近の梅毒感染者の急増により、再び術前のスクリーニング検査が重要になってきています。

 もちろん、何より重要なのは梅毒感染者を減らすことです。いまは、男性だけでなく20代を中心とする女性に急増しています。国や公的機関は若い世代に対しても性感染症に関する教育を徹底し、避妊具の使用による不特定多数への感染予防なども加えた性風俗の乱れを正していく対策が急務といえるでしょう。

◆本コラム書籍化第3弾「60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常」(講談社ビーシー)発売中

【連載】上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

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