心臓に空気が入り込む「空気塞栓」は深刻なトラブルを招く
去る7月、兵庫県立こども病院が起こした「空気塞栓」の医療過誤について、患者と家族に謝罪しました。昨年5月、未就学(10歳未満)の男児に実施された心臓手術において、誤って心臓内に空気が入り込み、空気が移動して脳の血管に詰まったことで、男児は術後に全身のけいれんを起こし、脳梗塞が見つかりました。男児には処置やリハビリが行われ、回復はしているものの、現在も自力で歩けないなどの重い後遺症が残っているといいます。
男児が受けたのはフォンタン手術と呼ばれるもので、本来はガス交換する肺への血流を送り出す右心室と、酸素化された血液を全身に送り出す左心室で心臓が機能していますが、生まれつき1つしかない心室(ほとんどは右心室)を全身の循環維持に使い、肺への血流は上半身と下半身の大静脈を直接肺動脈につなげて肺循環を維持し、左右の血流正常化を期待する術式です。病院によると、血管をつなぎ合わせる際に大量の空気が入り込んだとのことでした。
フォンタン手術は一般的に先天性心疾患の子供に対して実施される手術で、私には経験がなく詳細まではわかりませんが、この術式は再手術で行われることが多く、心臓周囲の癒着剥離を十分に行わなかったことで、拍動開始前の心臓からの空気抜きが不十分な状態で処置を進めたことが空気塞栓を引き起こした一因ではないかと考えられます。
フォンタン手術は、いくつかほかの手術を経て患児のある程度の成長を得てから最終段階として実施されるケースが一般的なので、それまでの手術による癒着が多く残っていて、大がかりな剥離はリスクがあると判断された可能性があります。癒着があると、心臓に入り込んだ空気を抜く際に、完全に抜けきらないケースがあるのです。現場では問題ないだろうと判断していても、結果的に大量の空気が入り込んでしまったのでしょう。
以前、国立国際医療研究センター病院での心臓手術で発覚した医療事故でも、手術中に空気が血管内に侵入して空気塞栓を起こし、心筋保護液や血液が心筋まで十分に届かなくなった不備が指摘されています。
心臓を切開する心臓手術では、どうしても心臓内に空気が入り込みます。その空気が大量に血管内に侵入して脳の血管に詰まると、脳梗塞や半身麻痺、意識障害などの深刻なトラブルを招きます。また、冠動脈が詰まってしまうと心筋障害が起こります。そのため、心臓手術では“空気抜き”が欠かせない処置なのです。