急増中の「梅毒」は心臓にどんなトラブルを引き起こすのか
ここ数年、「梅毒」の感染者が爆発的に増えています。NIID(国立感染症研究所)の報告によると、1990年代以降は患者数が年間1000人を下回っていましたが、2011年ごろから増加の一途をたどり、2023年には過去最多の1万4906人を記録しました。今年はわずかに減少傾向となっていますが、9月初旬の時点で9847人の感染が報告されています。
梅毒は、「梅毒トレポネーマ」という細菌に感染することで発症する性感染症のひとつで、主に性的接触により感染します。潜伏期間には個人差がありますが、一般的には感染してから約3週間で初期症状が現れます。
ただ、症状が出るまで3カ月程度かかるケースもあったり、現れた症状が自然消滅したり、また出現したりを繰り返すこともあり、そのまま放置して気づかないうちに進行してしまう危険があります。治療せずに10年以上が経過すると、ゴム腫と呼ばれる発疹ができたり、脊髄神経、心臓、血管、中枢神経系などに重篤な障害が生じ、最悪の場合は死に至ります。そのため、早期発見、早期治療が大切なのです。
梅毒が進行して細菌が心臓や血管に感染し、障害が起こった状態を「心血管梅毒」と呼びます。心血管梅毒では、大動脈の血管壁がもろくなって膨らむ「大動脈瘤の形成」、心臓に血液を供給する「冠動脈の狭窄」、心臓内にあって血液の逆流を防いでいる「大動脈弁の損傷」などが引き起こされ、それらによって心不全や大動脈瘤の破裂を招き、死に至る危険もあります。
梅毒にはペニシリン系とセフェム系の抗生物質がよく効くので、早期に治療を開始すれば進行せずに完治します。そうした有効な治療法が確立されているいまは、そこまで進行する例はそれほどありません。しかし、感染者が爆発的に増加していることで、今後は進行するケースが増える可能性もあります。自覚症状がないまま進行したり、症状が自然消滅して治ったと勘違いするケースも多いので、感染の不安がある人は定期的な血液検査を受けることが大切です。