能登半島地震の映像でつらい記憶が…「震災フラッシュバック」気持ちを軽くする周りのサポート
話をさえぎらずそのまま受け入れる
精神科医で明陵クリニック院長の吉竹弘行氏が言う。
「阪神・淡路大震災や東日本大震災など未曽有の災害の直後は、家族や大切な人と生き別れになったり、その死に直面したりして強いストレスに襲われるため、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う人が相次ぎます。今回の能登半島地震でもそれが心配ですが、一方で過去の被災経験によるPTSDが落ち着いた人も、今回の被災報道をキッカケに症状がぶり返す恐れは十分考えられます。周りの人のサポートが不可欠です」
では、家族や仲間が苦しんでいたら、周りはどんなサポートをすればいいのだろうか。吉竹氏に聞いた。
過去の不快な記憶がフラッシュバックすると、気持ちが追い詰められて動揺するだけでなく、いろいろな症状が現れるという。
「精神面では不眠や悪夢などの睡眠障害、恐怖の揺り戻し、イライラ、孤立感、気分の落ち込み、身体面では頭痛や胸痛、めまいや吐き気、動悸や発汗、持病の悪化などで、こうしたことが相まって、集中力や決断力が低下して、考えがまとまらなくなることも珍しくありません。それで食欲不振になったり、逆に食べ過ぎたり、あるいはお酒やたばこが増えたりするほか、ケンカしやすくなったりもします」
前述の女性が悩む不眠症や食欲不振は、まさにフラッシュバックにともなう症状のひとつだったのだ。WHO(世界保健機関)の世界精神保健調査によると、日本人が一生のうちでPTSDになるリスクは1.1~1.6%。年齢層は幅広くどの年代もなりうるが、どちらかというと、男性より女性、高齢者や子供が発症しやすいという。
「フラッシュバックのつらさを軽くするには、周りの人がとにかく被災体験に耳を傾けることが肝心です。無理に聞き出すのではなく、相手のペースに任せて、共感する姿勢を見せ、話をさえぎってはいけません。相手の気持ちや感情をそのまま受け止め、寄り添うことが大切です」
相手がふさぎ込んでいるからといって、無理に気持ちを引き上げるような声かけはよくない。
「『頑張れ』『すぐに乗り越えられる』といった安易な励まし、『○○するといい』といった助言は禁物です」
前述の女性の場合、「娘が昔の話に寄り添ってくれたことで少し気持ちが楽になった」そうだ。症状は全快していないものの、地震報道直後のまったく眠れなかったときよりは改善しているという。