大リーグ機構も球団も…対中経済制裁に大わらわの理由
これに比べれば、「一塁に行けば1点入り、二塁に行けば2点入る」といった具合に、中国における野球の認知度は低く、普及の度合いも限られている。
しかし、年間7500万人以上が観戦する大リーグの試合は、米国で事業を展開している中国企業にとって、魅力的な広告の出稿先だ。また、大リーグ側も、かつての主要な広告主であった日本企業が海外での事業展開を縮小させる中で、成長力のある中国企業の広告を受け入れることは、収入の増加という点で大きな利益をもたらす。その意味で、やはり大リーグにおいても米中関係は重要な役割を果たしている。
それだけに、今年7月からトランプ政権が本格化させた対中経済制裁と中国による報復制裁は大リーグ関係者にとって傍観できない問題だ。
もちろん、中国から輸出される産業ロボットや電子部品などに25%の高関税が課されたからといって、中国企業が対米事業を直ちに停止することはない。
だが、中国が米国産の農産物や航空機に報復関税を課したことは、今後、ボーイングなどのような大リーグ各球団のスポンサーとなっている企業の業績だけでなく、球団経営者たちの本業にも悪影響を及ぼしかねない。中国での事業拡大を目指す大リーグ機構にとっても、米国による対中制裁は大きな障害となる可能性がある。
それだけに、大リーグの関係者たちは、複数の機構首脳や球団幹部が大統領に直接連絡できるという関係の近さを生かして、事態の悪化を防ごうとしているのである。
(アメリカ野球愛好会代表、法大講師・鈴村裕輔=隔週月曜掲載)