柔道66kg級の大一番「丸山城志郎vs阿部一二三」の深い因縁

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ヒマワリと月見草

 阿部は高校時代に天理大柔道部で練習していたこともあり、進学は確実と思われていた。しかし、周囲の反対を押し切って「甘えを捨てるため、ゼロからのスタートを」と、日体大に進学。そんな芯の強さもある。

 野球野村克也氏が生前、「王や長嶋がヒマワリなら、私は月見草」と言ったが、阿部がヒマワリなら丸山は月見草といったところか。その丸山を語るにあたり、欠かせない存在が父・顕志氏である。

 顕志氏自身、65キロ級でバルセロナ五輪に出場した柔道家。長男の剛毅とともに、幼少期から丸山に柔道を叩き込んだ。鉄拳制裁も辞さないスパルタ指導で、丸山にも「柔道家である前に、人としてしっかりすること」などと説いているという。

 こんなこともあった。

 今年5月、東京五輪90キロ級代表の向翔一郎が同60キロ級代表の高藤直寿と高藤のYouTubeチャンネルで対談。その際、向が電子たばこを吸っていたことについて、顕志氏は自身のFacebookで苦言を呈した。

 すると、向は自身のYouTubeチャンネルで、「f××k 〇 MOUNTAIN」というタイトルのラップを投稿。名指しこそしなかったものの、顕志氏を挑発するような行動に出た。その向が阿部と仲が良いこともあり、さまざまな臆測を呼んだ。

「顕志さんの教育方針は今の時代にそぐわないかもしれませんが、とにかく柔道熱は本物のお父さんですね。息子とはいえ、丸山もいい大人ですから、助言は技術的なものより、精神論が中心。丸山が心強いのは、同じく天理大を練習拠点としている73キロ級の大野将平という、最高のお手本が近くにいることでしょう。昨年まで丸山にとって阿部は追いかける存在だったが、昨年の世界選手権で優勝したことで立場は逆転した。昨年のグランドスラム・大阪決勝で阿部を倒していれば、そのまま五輪代表に内定していましたが、敗れて立場は再び五分になった。春先の稽古で、練習拠点の天理大で『仮想・阿部』を相手に乱取りをしていた姿が印象に残ります」(柳川氏)

■「内股」を巡る攻防

 では、この一大決戦の見どころは何か。

 背負い投げを得意とする阿部に対して、丸山の武器は足技の内股。立ち技の攻防を左右する組み手も、阿部が右で丸山が左。本番ではスタイルの異なる者同士の「喧嘩四つ」の展開が予想される。

 前出の柳川氏は「通常通り、4月に開催されていれば、勢いのある阿部に分があったでしょう」と話せば、「五分の実力だけに、どちらが勝ってもおかしくはありません」とは、柔道ライターの木村秀和氏。

「阿部、丸山とも互いに相手の手の内を知り尽くしていることから、両者とも得意技一発で沈めるのは難しいでしょう。もちろん警戒し過ぎて消極的になれば、指導を取られて劣勢に立たされるため、互いに積極的に動いてくるのは予想できますが、気持ちがはやれば隙が生まれるだけに墓穴を掘りかねません。平常心で大胆かつ慎重な攻めが勝敗を左右する。過去、6試合で延長戦に突入しただけに、今回ももつれると思います」

 阿部は、妹の詩とともに18年世界選手権(アゼルバイジャン・バクー)に続く、史上初のきょうだい同時金メダルが期待される。阿部、丸山のどちらが五輪代表を勝ち取っても表彰台は確実視される。となれば、全日本柔道連盟(全柔連)は話題性のある阿部に出場権を手にしてもらいたいのが本音だろう。

「阿部が勝機を見いだすとすれば、丸山が得意とする内股を仕掛けた時でしょう。去年のグランドスラム・大阪決勝で見せた返し技の内股すかしが武器になる。丸山が内股を狙って体を曲げた際、阿部がすかさず外せれば体落としを繰り出すチャンスが生まれる。直近の対戦で成功している阿部は内股すかしに自信を持っているはずです。内股すかしからの連係がカギを握る」(木村氏)

 丸山は決戦に向け、「多くの方々への感謝の気持ちを忘れず、強い気持ちで戦う姿を皆さまにお伝えできれば」と意気込めば、阿部は「豪快な一本を取りにいく自分の柔道をして勝ち切り、五輪代表内定を必ず決めます」と決意表明した。本番では、内股を巡る一瞬の返し技のデキが明暗を分けそうだ。

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