【東京アクアティクスセンター周辺】最新鋭の水泳会場の<内と外>は別世界だった
東京アクアティクスセンター周辺
東京五輪で金メダルが確実視されていた競泳の瀬戸大也(TEAM DAIYA)。
しかし、400メートル個人メドレーと200メートルバタフライで決勝進出を逃し、残すところ200メートル個人メドレー1種目となっていた。
だが、7月28日の同予選もタイムが上がらず、16位でギリギリ通過という状況だった。
そこで、彼の今大会ラストレースになるかも知れなかった29日昼、会場の江東区辰巳にある「東京アクアティクスセンター」を訪れた。
この日も朝から気温30度超えの猛暑に見舞われた東京都内。辰巳一帯もギラギラした太陽が照りつけていた。
東京アクアティクスセンターの最寄り駅は、地下鉄有楽町線の辰巳駅。2番改札を出て小さな橋を渡ると「辰巳の森緑道公園」に出る。そこからWOWOW辰巳放送センターの前を東に進み、水球会場の「東京辰巳国際水泳場」が見える交差点を左折すると真新しい巨大な建物が見えてくる。
これが総工費567億円という巨額の費用を投じて2020年2月に完成した同センターだ。
実は何度かここには足を運んでいるのだが、中に入ったことは一度もない。東京五輪の1年延期が決まった後、しばらくバリケードに覆われていたが、2020年10~11月にかけて実施された施設体験会には、参加することができなかったからだ。
その後は再び五輪準備のためクローズ。4月の水泳日本選手権など特定イベント以外は閉鎖という状態が約1年半続いている。
本来であれば、指定管理者のオーエンス・セントラルスポーツ・都水協グループは、今夏から一般利用やイベント誘致などで稼働させることができたはずだが、その予定がさらに1年先までズレ込んだ。
2019年の東京都の資料によれば、同センターの年間支出は9億8800万円。収入は個人・専用利用などで3億5000万円を見込むものの、差し引き6億3800万円のマイナスという試算になっている。
指定管理者は赤字幅を少しでも圧縮して「稼げる施設」にしなければいけない。
辰巳の森海浜公園はガラガラ
そもそも水道・光熱費のかかるプールは維持管理が非常に難しい。
五輪・パラリンピック後の後利用とカネの問題は彼らにも、我々都民にも重くのしかかりそうだ。加えて言うと、1993年完成の辰巳水泳場のアイススケートリンクへの転換問題もある。
目と鼻の先にアクアティクスセンターができたことから、築28年のこちらは不要になり、湾岸エリアにはないスケート場にすることが正式決定したのだが、果たしてコロナ禍で財政が悪化した東京都が本当に計画を進められるのか。不安は尽きない。
そんなことを頭に浮かべつつ、バリケードで覆われた施設を横目に見ながら「辰巳の森海浜公園管理事務所」へ。
同公園内にはラグビー場1面、少年広場2面、バーベキュー場などがあり、通常の週末は近隣のみならず、都外からもやってくる人も少なくないといが、今はマレットゴルフとパターゴルフしか営業できない状態だ。
「オリ・パラで駐車場が使えないので遠くから来られる方が減り、今はすごく暇です。9月のパラ終了後に撤収に入ると聞いていますが、アクアティクスセンター周囲の芝生の上にコンクリートを敷いてしまったので、それを元に戻す作業が必要だと聞きました。芝生の養生は時間がかかりますよね。いつから一般利用ができるのか分かりませんね」とスタッフは言う。
公園利用者にとって芳しくない状況なのは間違いない。
岡山県警から出向いた警察官も「仕方ない」
仮に今回の五輪が有観客で開催され、瀬戸や萩野公介(ブリヂストン)、大橋悠依(イトマン東進)の雄姿を目に焼き付けることができれば、その現状や今後に対する人々の捉え方も違っただろう。スポーツ関係者の1人として、残念な感情が湧いてくる。
そこから猛暑の中、公園を1周してみたが、観客の入場口になるはずだった仮設テントは使われないまま。警備中の岡山県警から出向いた警察官も「仕方ないですね」と残念そうだった。公園内の賑わいはまるで感じられない。
瀬戸や萩野が泳いだ時間に近くにいたのは、バスケットボールの練習をする者、マレットゴルフをする老夫婦、そしてベンチに寝転がる男性2人くらい。 最新鋭の施設の内と外が、別世界のように感じられた。
だが、現実に瀬戸や萩野は奮闘している。30日の決勝時には、お膝元で応援したいという人が1人でも現れたらいいのだが……。