著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

【江戸川区葛西】カヌー会場が地域に愛されるレガシーになれば理想的

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江戸川区葛西

 7月21日から競技が始まった東京五輪も折り返し地点。30日はフェンシング男子エペ団体や柔道女子78キロ超級の素根輝(パーク24)が金メダルを獲得。しかし、期待の大きかったなでしこジャパンやバドミントン女子シングルスの奥原希望(太陽ホールディングス)、山口茜(再春館製薬所)らが早過ぎる敗退を強いられた。

 そんな中、カヌー・スラローム男子カヤックシングルの足立和也(ヤマネ鉄工建設)も準決勝に参戦。カヌーの名門・駿河台大学を中退して、競技に専念したハングリーな選手として注目されていた。その舞台である江戸川区のカヌー・スラロームセンターに足を運んだ。

 カヌーの競技会場は2カ所。スラロームが同センターで、スプリントが江東区の海の森水上競技場で行われた。

 前者は7月25日にスタートし、2016年リオデジャネイロ五輪銅メダリストの羽根田卓也(ミキハウス)の連続メダルが期待されたが、残念ながら10位止まり。その分、最終日の準決勝・決勝レースに挑む足立への期待が高まっていた。

 同センターはJR京葉線・葛西臨海公園駅から徒歩15分。東京都が東京五輪に向けて整備した新規恒久施設6つの中では、総工費は73億円と安価な方でアクセスにも恵まれている。隣が大規模公園なので、大会後の後利用を考えても悪くない。

ラフティングと公園散策が楽しめる場所に

 実は、筆者は2019年7月の完成時に東京都がトライアル実施したラフティング体験会に参加したのだが、渓流を模した全長200メートル、高低差4.5メートルの水路に毎秒12トンの水流が生み出される人工コースは、掛け値なしに凄まじい迫力だった。

 その時、話を聞いた指定管理者の協栄担当者も「都心に近いメリットがあるので、公園と連携してバーベキューとラフティングをセットで売り出したり、キッチンカーを置いて飲食可能にしながらラフティングと公園散策と楽しんでいただくアイデアもあります」と前向きに話していた。コロナ禍で計画実行は先になりそうだが、2019年試算の年間1億8600万円の赤字という収支は、改善の見込みがありそうだ。

 施設の未来像や経費に関わることを京葉線に乗りながら考え、車内から同センターが一望できることに驚きながら最寄り駅に到着。公園内の「ダイヤと花の大観覧車」に乗って会場を眺めようと向かったが、あいにく25~30日の競技日は休止。

 サービスセンターで聞いてみると「同じ内容の電話問い合わせが何件もありました。警備の都合などがあって休止しているんだと思います」という説明だった。

競技会場が見えるという情報が流れて…

 確かに観覧車から撮影した映像を勝手に配信されたら、放映権にも関わってくるだろうし、何か危険なことを企む輩もいるかも知れない。これはやむを得ない措置と言える。ただ、観覧車の中から数分間でも競技を見た子供たちとっては最高の思い出になったし、運営会社の泉陽興業も経済的メリットがあったはず。そう考えるとやはり複雑な心境になった。

 そこから同センターの隣接場所まで行くと、会場の一部が見えてきた。 

 それを撮影すべく、ギリギリのところまで進もうとしたら、鹿児島県警から派遣された警察官がすっ飛んで来て「すみません。この先には入れないんです」と申し訳なさそうに言われてしまった。

 別の警備員に事情を聞くと「ここから競技会場が見えるという情報が流れて、警備が強化されたようです。それに今日はレバノン国王も来場されるので警戒態勢を強めています」とのこと。やむなく制限エリア前で午後2時の準決勝開始を待った。

「早く施設内に入れるようになればいい」

 競技開始時になると、マウンテンバイクの都内在住男性や外国人、記念写真目的の一般人など複数の人が集まってきた。その中に江戸川区在住の細川さん親子がいた。

「小学校3年生の息子に五輪を見せたくて連れてきました。カヌー・スラロームセンターが競技会場になると決まってから、葛西臨海公園駅もすごくキレイになったし、ハワイアンフードを楽しめるレストランもできた。区内の学校ではプールでパドル漕ぎ体験をさせるなど、五輪への機運が高まっていたんです。結局、無観客で競技に触れる機会はなくなったけど、地元住民としては、早く施設内に入れるようになればいいなと思います」と母・弓子さんは率直な思いを吐露していた。

 彼女ら区民だけでも生観戦ができていたら、五輪施設を誇らしく感じるきっかけになっただろう。レースに挑んだ足立は準決勝敗退を強いられたが、熱狂的声援の中で戦っていたら結果も違ったかもしれない。

 都内で3000人超の新規コロナ感染者が出ている今、そんな感情を抱くだけでも不謹慎と言われてしまうのかもしれないが、残念な気持ちはどうしても拭いきれなかった。

 大会後の一般利用開始は2022年以降と見られるが、ここが多くの人で賑わって黒字施設化し、地域に愛されるレガシーとなれば理想的。そうなることを強く願う。 

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