【江東区&大田区】生観戦でマイナー競技の魅力アピールの好機がフイに
東京五輪6日目の7月28日には、競泳女子の大橋悠依(イトマン東進)が400メートル個人メドレーに続き、200メートルでも金メダルを獲得。女子競泳史上初の二冠を達成するなど、日本のメダルラッシュが続いた。
水泳のようなメジャー競技はまだしも、マイナースポーツは競技人数自体が少ない。大勢の観客に生観戦してもらって魅力をアピールしたい、という思惑を抱いていた競技団体も多かったはず。
東京五輪のために整備された施設維持も難しくなるかもしれない。その代表格と言える江東区の海の森水上競技場、大田区の大井ホッケー競技場を訪れた。
東京五輪期間の7月19日から8月9日にかけて「首都高速道路のロードプライシング制」が導入されている。早朝6時~夜10時は「1000円が加算」される。いくら何でも高額過ぎやしないか。
そこで筆者は一般道を選択。午前9時に中野区の自宅を出発し、環状七号線(都道318号)を辛抱強く南下することにした。
大原交差点付近や上馬交差点など渋滞のメッカで何度か止まったが、通勤時間帯が終わっていたせいか、意外とスムーズに進み、約1時間で大井ホッケー競技場付近まで辿り着けた。
鮫洲運転免許試験場や大井競馬場に近いこのエリアは「物流倉庫地帯」のイメージが強い。そこにポツンとあるのが、大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森だ。五輪会場のホッケー競技場はこの中だが、一帯がバリケードが張り巡らされて施設は一切、見えない。
「本会場の競技は無観客での実施になります。チケットをお持ちの方は入場できません」というつれない掲示がなされているだけで、周りにいるのは警察官くらい。
無観客開催となり、地元住民にとって「愛着ある場所」になる機会を逃したのは、大いに悔やまれる。
五輪後の施設利用にも多額の税金が
そこから東京港臨海道路を15分ほど走り、海の森水上競技場のあるエリアへ。周囲にはごみ処理場や産業廃棄物処理場があり、コンビニどころか飲料の自動販売機ひとつも見当たらない。一般の人は滅多に寄り付かない場所なのだ。
最寄りのバス停「環境局中防合同庁舎前」から徒歩20分というアクセスが、ロケーションの悪さを物語っている。この点に関しては、2019年6月の完成時から大きな課題と言われていたものだが、今回の無観客開催によって、ことさらクローズアップされることはなくなった。
観客席の屋根についても同様だ。当初計画では全体を覆う屋根をつける予定だったが、2016年8月の小池百合子・現東京都知事就任を機に新規恒久施設の費用削減の話が浮上。VIP席側半分しか整備できなかったのだ。
しかも、五輪本番に向けて合計1万6000席の屋根なし仮設席や立ち見席が整備された。猛暑の中、そこに超満員の観客が押し寄せていたら、熱中症で倒れる人が続出しただろう。五輪組織委員会や東京都の関係者は、逆に安堵している部分もあるかもしれない。
とはいえ、大井も海の森も巨額の建設費が投じられたのは、紛れもない事実である。
2019年の完成時の発表では大井が総工費48億円、海の森は同308億円。五輪直前の仮設席整備などでさらに億単位以上が投入されたはず。それは全て我々の税金が原資となっている。それが水泡に帰したことはやはり納得がいかない。
後利用についても、大井は年間費用1億4500万円、海の森は同2億7100万円と試算されている。どちらも指定管理者が大会などを誘致して収益を上げることになっているが、当初から赤字を見込んでいるのだ。コロナ禍でイベント開催は難しく、赤字幅はもっと増えるかもしれない。将来的には施設存続の危機に瀕しないとも限らないいのだ。
■ボランティアが観客席で悠然とレース観戦
カネの問題だけではない。ホッケーやボート関係者にしてみれば「関心を持ってもらうビッグチャンスを逃した」という思いが強い。海の森の施設全体が一望できる東京港臨海道路の側道沿いに5~6人のファンが訪れていたが、その中に実業団の現役ボート選手がいた。
「日本のボート競技人口は1600人程度。東京五輪で生観戦し、興味を持つ人が増えれば、競技人口が増えるのではないかという期待がありました。それがフイになったのは本当に残念。こんなに風通しのいいところでコロナ感染リスクは皆無に近いのに……」と悲痛な思いを吐露していた。
彼自身も27日のチケットに当選しながら入れなかった1人。諦め切れずに漕艇場のある埼玉県戸田市から足を延ばしたという。
だが、日本の大石綾美(アイリスオーヤマ)・冨田千愛(関西電力)のレースが終わるか、終わらないかというタイミングでパトカーが襲来。「車を動かして」と注意され、その場を離れざるを得なくなった。
ボランティアが観客席で悠然とレースを見ている事実を彼はどう受け止めたのか……。今回の無観客開催は本当に理不尽である。