今江敏晃は2005年のプレーオフ中、周囲の白い目もはばからず妻の出産に立ち会うため1日離脱した
「妻が『出産時に一緒にいて欲しい』と言っている。出産に立ち会うために1日だけチームを離れてもいいでしょうか?」
当時、日本の野球選手が、家庭の事情で試合を欠場するなど前例のないことだった。しかもパ・リーグの優勝がかかったプレーオフの真っ最中だ。コーチ陣は青ざめたそうだ。
■8打席連続安打の日本シリーズ記録
「これを許してしまっては、チームの和を乱すのではないか?」と紛糾したが、米国人にとっては普通のこと。ボビーはあっさりチームを離れる許可を出した。
1日でチームに再合流した今江はその後、阪神との日本シリーズ第1戦で先制ソロ本塁打を放った。これで勢いに乗り、4打数4安打の固め打ち。第2戦で8打席連続安打の日本シリーズ記録を達成した。ロッテは結局4連勝で日本一。今江は15打数10安打、4打点、打率.667でMVPに輝いた。「空白の1日」が今江の爆発を呼んだのだろうか。まさに「ボビーマジック」である。
当時、ボビー以外には理解してもらえず、周囲から白い目で見られた。それでも家族を優先した優しさと芯の強さ、そして真っすぐな性格は監督になった今も変わらない。
昨年10月、楽天監督に就任した際、「おめでとう。思う存分、ゴリ(今江の愛称)の野球をやってください」とメールを送ると、「初さん、お久しぶりです。ありがとうございます。精一杯頑張ります」と即返信がきたのも律義な男らしかった。