北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「日露戦争秘話 西郷隆盛を救出せよ」横田順彌著、日下三蔵編
中村春吉秘境探検記シリーズの最終編である。最終編とはいっても、それぞれが独立して読めるようになっているので、これまでの2作「幻綺行 完全版」「大聖神」を未読の方も安心して読まれたい。これが面白ければ…
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「嵐の地平」 C・J・ボックス著 野口百合子訳
猟区管理官ジョー・ピケットを主人公にするシリーズの最新作だが、これまでの作品を未読で、初めて読む方でも大丈夫。たとえば今回は、ジョーの次女エイプリルが激しく殴打されて意識不明で発見されるところから始…
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「夜の少年」 ローラン・プティマンジャン著 松本百合子訳
息子を持つ父親が読むと、つらい小説だ。長男フスが10歳のときに母親が亡くなる。最後の3年間は、父と一緒に毎週、闘病の母を見舞った。素直ないい子だった。だが徐々に勉学から離れ、付き合う友人も変わってい…
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「広重ぶるう」梶よう子著
役者絵と美人絵で名をあげた国貞、武者絵に活路を見いだした国芳。この豊国門下の双璧に比べると、豊広門下の広重はおのれの道が定まらず悶々としている。その広重が異国の色と出合うところから本書は始まる。それ…
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「過ちの雨が止む」 アレン・エスケンス著 務台夏子訳
ジョー・タルボットを主人公とするシリーズの第2作である。前作の「償いの雪が降る」を未読の人は、では無理かなと思うかもしれないので、全然大丈夫だと最初に書いておく。前作が大学生編で、今回が社会人編と考…
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「不可視の網」林譲治著
監視カメラシステム(SCS)という新しいセキュリティーシステムの実証実験のために選ばれた地方都市(姫田市)が舞台の物語である。その実験は、総務省、公安調査庁、外務省、経産省など多くの省庁がこのプロジ…
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「マウンテンガールズ・フォーエバー」鈴木みき著
登山をモチーフにした作品集だ。5編の主人公はすべて女性である。高校生から専業主婦、アラサーの派遣女子まで、さまざまな女性が登場して山との関係が描かれていく。 どの短編も読ませるが、ここでは「…
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「渚の螢火」 坂上泉著
第1作は、西南戦争を描いた松本清張賞受賞作の「へぼ侍」、第2作は昭和29年の大阪を舞台に、自治体警察と国家地方警察の対立を背景にした「インビジブル」(日本推理作家協会賞を受賞)と、質の高い作品を書い…
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「全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割」岡本雄矢著
札幌で芸人をしながらフリースタイルの短歌を作っている著者の本である。「フリースタイルの短歌」とは、五七五七七の31文字にこだわらず、自由に作るもので、たとえば本書から引用すると、「あの数ある自転車の…
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「八月の母」早見和真著
すごい小説だ。息苦しくなる小説だ。 しかし、仕掛けのある小説なので、注意して紹介しないと読者の興をそいでしまうだろう。まず、親の愛に恵まれない美智子という女性の半生が描かれる。これは書いても…
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「捜索者」タナ・フレンチ著、北野寿美枝訳
主人公のカルは、シカゴ警察を退職してアイルランドにやってきた。なぜ警察をやめたかは短い回想で語られるが、妻と娘とも別れ、いまはアイルランド北部の小さな村で廃屋を修繕しながら暮らしている。 隣…
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「世界は縮まれり」 湯浅邦弘著
西村天囚「欧米遊覧記」を読む、と副題のついた本だ。明治43(1910)年、朝日新聞社主催の世界一周旅行ツアーが行われ、57人が参加したのだが、そのツアーに特派員として参加した西村天囚が帰国後に著した…
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「世界の中心で馬に賭ける」須田鷹雄著
「海外競馬放浪記」との副題通り、訪れた海外競馬場160のうち、著者の記憶に残る63場を紹介する書である。 世界には変わった競馬場があるものだと感心する。たとえば、スイスのサンモリッツ競馬場では…
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「幸せのままで、死んでくれ」清志まれ著
うまいなあ。わけあって番組を去ることになったとき、「完璧を目指すのはやめなさい」と言ったあと、テレビカメラに向かうベテランアナウンサー安井和美の姿をくっきりと描くのである。その失意と矜持がその向こう…
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「バスケットボールの福音」岸田智明著
バスケットボール小説である。主役は小学5年生の女子。陽菜と沙耶の双子姉妹が、バスケットのチームを作ろうと言いだすのが発端だ。特にバスケットが好きだったわけではない。日曜の朝からごろごろテレビを見てい…
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「天使の傷」(上・下)マイケル・ロボサム著、越前敏弥訳
臨床心理士サイラスと、「嘘を見抜く少女」イーヴィを主人公にしたシリーズの第2作だが、前作「天使と嘘」を未読でも大丈夫なので、気にせずに手に取られたい。 元警視の死体が発見されるところから始ま…
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「衛艦あおぎり艦長 早乙女碧」時武里帆著
知らない世界というのは、ホント、面白い。ここで描かれるのは、海上自衛隊の護衛艦である。船の上で自衛官たちはどう過ごしているのか。それを具体的に、克明に描いていくのである。 著者は、元海上自衛…
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「博士の長靴」 瀧羽麻子著
二十四節気は、一年を24の季節にわける考え方で、藤巻家ではその二十四節気のほぼすべてについて、この日はこれをするという決まり事がある。春分と秋分にお墓参りをしたり、冬至にゆず湯に入ったりするのはごく…
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「渚のリーチ!」黒沢咲著
麻雀小説である。しかも著者は現役の麻雀プロ。なあんだ、素人の書いた小説か、と言ってはいけない。競馬小説の数々の名作を残したあのディック・フランシスだって、最初は素人だったのだ。だから、こう言っておく…
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「匿名作家は二人もいらない」アレキサンドラ・アンドリューズ著、大谷瑠璃子訳
匿名のベストセラー作家がアシスタントを募集していて、それに応募して採用されたヒロインの日々を描く長編である。 このヒロイン、フローレンスが作家志望で野心満々の女性という設定がこの長編のキモ。…