「渚のリーチ!」黒沢咲著
麻雀小説である。しかも著者は現役の麻雀プロ。なあんだ、素人の書いた小説か、と言ってはいけない。競馬小説の数々の名作を残したあのディック・フランシスだって、最初は素人だったのだ。だから、こう言っておく。黒沢咲は麻雀小説界のディック・フランシスであると。ちょっと褒めすぎの気がしないでもないが、疑う方は本書を読まれたい。
たとえば、こういう一節がある。
「不思議なもので、致命的なミスをするときは、捨て牌が河につく前に違和感を覚えることが多い。違う、これじゃない! と指先がびりびりしたときにはもう、その牌が卓上に置かれている。そして私の手元に残る牌たちは、うっすらと、けれど確実に、輝きを失っている」
いいでしょ、ここ。共感を覚える方も多いのではないか。
これは、2018年に発足のMリーグに参加した著者が、自身をモデルに描いた長編だが、そのMリーグがチーム対抗戦であるために、これまでの麻雀小説とは違った局面が立ち上がってくる。これが素晴らしい。
どういうことか。これまでの麻雀小説はすべて、卓上の孤独な戦いを描いてきた。ところが、チーム対抗戦になると別の要素が入り込むのだ。その目に見えない感情が爆発するラストで、目頭が熱くなる。まさか、麻雀小説を読んでいるというのに、熱いものが込み上げるなんて、びっくりだ。
(河出書房新社 1782円)