「博士の長靴」 瀧羽麻子著
二十四節気は、一年を24の季節にわける考え方で、藤巻家ではその二十四節気のほぼすべてについて、この日はこれをするという決まり事がある。春分と秋分にお墓参りをしたり、冬至にゆず湯に入ったりするのはごく一般的だが、藤巻家では春分と秋分と冬至だけでなく、他のすべての節気についても決まっているのだ。たとえば藤巻家では立春に赤飯とすき焼きを食べる。
もっとも時代が下ると、すき焼きを食べず、焼き肉を食べに行く者もいたりして、一族の老人のなかには面白く思わないムキもあったりするが、長老は「どちらも肉だ」と言うから、そこまで厳密ではないのもいい。
本書は、1958年の立春から2020年の立春までの、その藤巻家を6つの短編で描く連作長編である。語り手は、藤巻家の隣に住む主婦に始まり、どんどんリレーしていく。その語り手の日々のなかに、さりげなく藤巻家の変化が出てくるので、あの2人は結婚したんだなあとか、いろいろわかる仕組みになっている。
この連作長編を後味のいいものにしている原因は、一族の長老、藤巻昭彦(冒頭のパートではまだ学生だが、のちに気象学の大家になる)の、一風変わった性格にある。朝起きると必ず空を見るというこの男が物語の中心にいるので、世俗離れした雰囲気が全編に漂うのだ。ゆったりとした時間が流れているのもそのためだろう。
(ポプラ社 1650円)