「夜の少年」 ローラン・プティマンジャン著 松本百合子訳
息子を持つ父親が読むと、つらい小説だ。長男フスが10歳のときに母親が亡くなる。最後の3年間は、父と一緒に毎週、闘病の母を見舞った。素直ないい子だった。だが徐々に勉学から離れ、付き合う友人も変わっていく。
父親はガチガチの左派で、フスが幼いころは一緒にビラ配りに出掛けたが、いまはもう行動をともにすることはない。
それどころか、フスが付き合う友人は、ファシズムの象徴であるケルト十字の描かれたバンダナを首に巻くような連中だ。それを指摘すると、彼らはいい連中で、人種差別主義者ではないと言う。だから、父親は自分に言い聞かす。フスは麻薬依存症でもないし、この界隈を怯えさせるような下劣な行為をしているわけでもない。ただ、幼少期を過ぎて親から少しだけ離れるようになっただけだと。それに、弟のジルーに対するこまやかな愛情は変わらないのだ。
帯に書いてあることなのでここにも書いてしまうが、そのフスが人を殺してしまうのが後半のヤマ場。それには事情があるのだが(それは本書を読まれたい)、殺人をおかしたことは事実で、父親の悲しみはついにピークに達する。
留意すべきは、フスが何を考えていたのか、ここまでいっさい描かれてこなかったことで、だからラストに出てくる、父に対するフスの手紙に胸を打たれる。深い余韻が素晴らしい。
(早川書房 2420円)