著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「日露戦争秘話 西郷隆盛を救出せよ」横田順彌著、日下三蔵編

公開日: 更新日:

 中村春吉秘境探検記シリーズの最終編である。最終編とはいっても、それぞれが独立して読めるようになっているので、これまでの2作「幻綺行 完全版」「大聖神」を未読の方も安心して読まれたい。これが面白ければ、前2作に遡ればいい。

 今回は、タイトル通り、西郷隆盛を救出するためにロシアの奥地に潜入する話である。西南戦争で死んだはずの西郷隆盛は、盟友陸奥宗光に助けられ、ひそかにロシアに渡ったというのである。ロシアの皇太子ニコライに気に入られ、最初は国賓待遇を受けていたが、ニコライの機嫌をそこねてシベリアの監獄に送られたとのこと。日本国内には西郷隆盛の帰国を望まない人間もいるので、正規の軍関係者を派遣できず、民間人の中村春吉に声がかかったというわけだ。

 かくて、たった1人でロシア奥地に潜入していくことになるが、旅の途中でいろいろな同行者ができるのはこの手の物語の常套といってよく、しかし群を抜いて面白いのは、虎が中村春吉の同行者となること。傷ついた虎を助けたら、なぜか春吉に懐いてついてくるのだ。しかも春吉の味方と敵を的確に見分けて、春吉が危機に瀕するとたちまち敵に飛びかかるから、頼もしい援軍といっていい。

 ロシア語もできないのにロシア奥地まで潜入するのはどうなのよ、というムキもあるかもしれないが、それはご愛嬌。とても愉しい小説だ。 (竹書房 1430円)




【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇