「日露戦争秘話 西郷隆盛を救出せよ」横田順彌著、日下三蔵編
中村春吉秘境探検記シリーズの最終編である。最終編とはいっても、それぞれが独立して読めるようになっているので、これまでの2作「幻綺行 完全版」「大聖神」を未読の方も安心して読まれたい。これが面白ければ、前2作に遡ればいい。
今回は、タイトル通り、西郷隆盛を救出するためにロシアの奥地に潜入する話である。西南戦争で死んだはずの西郷隆盛は、盟友陸奥宗光に助けられ、ひそかにロシアに渡ったというのである。ロシアの皇太子ニコライに気に入られ、最初は国賓待遇を受けていたが、ニコライの機嫌をそこねてシベリアの監獄に送られたとのこと。日本国内には西郷隆盛の帰国を望まない人間もいるので、正規の軍関係者を派遣できず、民間人の中村春吉に声がかかったというわけだ。
かくて、たった1人でロシア奥地に潜入していくことになるが、旅の途中でいろいろな同行者ができるのはこの手の物語の常套といってよく、しかし群を抜いて面白いのは、虎が中村春吉の同行者となること。傷ついた虎を助けたら、なぜか春吉に懐いてついてくるのだ。しかも春吉の味方と敵を的確に見分けて、春吉が危機に瀕するとたちまち敵に飛びかかるから、頼もしい援軍といっていい。
ロシア語もできないのにロシア奥地まで潜入するのはどうなのよ、というムキもあるかもしれないが、それはご愛嬌。とても愉しい小説だ。 (竹書房 1430円)