北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「黒い手帳」久生十蘭著 日下三蔵編
推理小説、現代小説、ユーモア小説、秘境冒険小説、時代小説と、幅広いジャンルの作品を書く作家は少なくないが、発表後80年以上たってもまだ面白いという作家は、残念ながら少ない。エンターテインメントは常に…
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「ジグソー・キラー」ナディーン・マティソン著、堤朝子訳
連続殺人鬼は刑務所に収監されているというのに、同じ手口の殺人が起きる──という冒頭から始まる物語は珍しくない。しかも連続殺人鬼が死体にほどこすシンボルまで彫られていた(これはマスコミにも公開されず、…
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「浪曲は蘇る」杉江松恋著
玉川福太郎と伝統話芸の栄枯盛衰、と副題の付いた書だが、いやあ、面白い。 浪曲初心者には知らないことばかりなので、そうだったのかと膝を打つことの連続なのである。たとえば講談、落語、浪曲の三大話…
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「アリスが語らないことは」ピーター・スワンソン著、務台夏子訳
分類すれば、ファム・ファタル(悪女もの)ということになるのかもしれないが、そう名付けた途端に、この小説の魅力の大半がこぼれてしまうような気がする。 父親の事故死の知らせを受けて帰郷した大学生…
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「竜血の山」 岩井圭也著
北海道の山奥で、巨大な水銀鉱山が発見されるところから、この物語は始まる。 時は昭和13年。当時水銀は、雷管の雷薬、起爆剤あるいは諸兵器の技術的装置などに必要な軍需品だったが、国内生産量は少な…
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「これってヤラセじゃないですか?」望月拓海著
元ヤン大城了は20歳、元気いっぱいの熱血漢だ。友人の乙木花史18歳は、超あがり症で初対面の人とは会話ができないものの、企画作りの天才で、この2人がコンビを組んで「日本一稼ぐ放送作家」を目指す青春お仕…
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「黛家の兄弟」砂原浩太朗著
冒頭近く、みやが新三郎の寝床に入ってくるシーンがある。 「だいじょうぶです--みやが、ぜんぶ教えてさしあげます」 みやは5年ほど前から筆頭家老の黛家の屋敷に奉公している娘で、新三郎と同…
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「プロジェクト・ヘイル・メアリー」(上・下)アンディ・ウィアー著、小野田和子訳
いやあ、面白い。ほんのちょっとだけのつもりで読み始めたら、やめられなくなった。 「できれば本書は、内容についてなんの事前情報もなしに読んでいただくのがいちばんいい」と解説(山岸真)にあったので…
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「頁をめくる音で息をする」 藤井基二著
タイトルがいい。装丁がいい。この2点だけで本を買うことはめったにないが、これはそのまれなケースだ。しかも内容までいいから素晴らしい。 尾道の古本屋店主のエッセー集である。読み始めたらやめられ…
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「シリア・サンクション」ドン・ベントレー著、黒木章人訳
迫力満点の冒険アクション小説だ。主人公は、DIA(国防情報局)の作戦本部要員マット・ドレイク。彼の任務は、新型化学兵器を開発して見境なくテロリストたちに売っているパキスタンの化学者、通称アインシュタ…
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「底惚れ」青山文平著
帯に「江戸ハードボイルド長編」とある小説だ。どういうことか。 「もう、こんなときは来ねえ。二度と来ねえ。手嶋の望んだとおりになっちまうが、ここでてめえを始末できりゃあ望外だ」 こういう…
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「リズム・マム・キル」北原真理著
パワーあふれる物語だ。 話は簡単。やばい写真を撮られた半グレの帝王が、殺し屋を雇ってその写真を回収させる話である。ガールズバーのVIPルームで未成年とよからぬことをしている現場を撮られたとい…
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「真・慶安太平記」真保裕一著
慶安太平記といえば、由比正雪や丸橋忠弥らが幕府転覆を図った慶安の変(決行前に発覚したので未遂に終わっている)を描いた実録もので、のちに歌舞伎や講談の演目にもなったので広く知られている。そこに「真」と…
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「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬著
すごいすごい。こんな小説、初めて読んだ。第2次大戦のスターリングラード攻防戦を描く戦争冒険小説だが、中心となるのは、女性だけの独立狙撃小隊なのだ。モスクワ近郊の故郷の村を焼かれ、母を殺された少女セラ…
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「凜として弓を引く」碧野圭著
女子高生が弓道を始める話である。家の近所を散歩していたら神社の境内に出て、かすかにパンという音がするので近づくと、境内の隅に弓道場があり、姿勢のいい人たちが並んで立って弓を射っていた。 パン…
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「塞王の楯」今村翔吾著
どんな攻めもはね返す最強の石垣を造れば、戦いはなくなるのではないかと、匡介は考える。攻めても無駄になると人々が考えるからだ。彼は、石垣造りの職人集団、穴太衆の飛田屋の後継者として育てられた青年で、戦…
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「暗殺者の献身」(上・下)マーク・グリーニー著、伏見威蕃訳
人目につかない男(グレイマン)と呼ばれている殺し屋コート・ジェントリーを主人公とするシリーズの10作目だが、続いているわけではないので、どこからでも読める。なんと全作、面白いのだ。こんな作家、そうい…
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「7年」こがらし輪音著
タイムスリップ小説は、中年読者にとって夢の小説である。50年近く生きてくれば、ああすればよかったこうすればよかった、という後悔と未練をたくさん抱えている。だから、もし人生をやり直すことが出来るなら、…
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「嫌われた監督」鈴木忠平著
落合博満は3度の三冠王を達成した大打者だが、引退してからも2004年から2011年まで中日ドラゴンズの監督を務め、すべての年でAクラス入りを果たし、4度のリーグ優勝、1度の日本シリーズ優勝を達成して…
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「賭博常習者」 園部晃三著
競馬小説である。カジノやチンチロリンも登場するので、正しくはギャンブル小説というべきだが、中心になっているのは競馬である。牧場を経営していた叔父の関係で、高校生のときから競馬場に出入りし(舞台は北関…