北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「ラストワンマイル」風戸野小路著
いやはや、大変だ。秋山が働く国内大手物流会社は、ほとんどブラック企業なのである。サービス残業を強要され、その日のうちに配達が完了すればいいほうで、昼飯を座って食べたことがない。それどころか食べている…
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「プエルトリコ行き477便」 ジュリー・クラーク著 久賀美緒訳
ここには2人の女性が登場する。まず、クレア。上院議員選挙への立候補を予定している大金持ちの夫(実はパワハラ男)の暴力から逃れたいと思っている女性だ。もうひとりのヒロインは、エヴァ。彼女はドラッグ販売…
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「フィッシュボーン」生馬直樹著
暴力団組長の父を持つ陸人。虐待を受け、児童養護施設で育った航。愛人殺しの罪で父が服役中の匡海。学校の中で浮いているこの3人が出会うのが、物語の始まりだ。 彼らは成長して、チーム・ランズを結成…
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「神欺く皇子」三川みり著
ライトノベルを読んでいると、異世界に飛ぶ話と、時間線を遡るタイムスリップものが少なくないので、いささか食傷気味である。この2つをモチーフにしたものは嫌いではないので、そういう作品が多いのはうれしいの…
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「自由研究には向かない殺人」ホリー・ジャクソン著 服部京子訳
主人公ピッパの住んでいる町で、17歳の少女アンディが行方不明になった。彼女と交際していたサル・シンがどうやら何かしたらしい。というのは、警察の事情聴取を受けたあと、サル・シンが自殺してしまうからだ。…
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「俺達の日常にはバッセンが足りない」三羽省吾著
バッセンとは、バッティングセンターのことで、昔はあちこちあったのに最近はめったに見かけない、とエージは言うのだ。大人も子供もたむろして楽しい場所であったのに、ああいう場所がないのは寂しい、と彼は言う…
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「隠れの子」 小路幸也著
小路幸也が時代小説を書いた?しかも、「東京バンドワゴン零」という副題が付いている? なんだこれは? 書店でこの文庫本を思わず手に取った方も多いのではないか。 「東京バンドワゴン」といえば、小路…
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「天使と嘘」マイケル・ロボサム著 越前敏弥訳
すごいシリーズが始まった。翻訳ミステリーのファンに、絶対のおすすめだ。 主人公は、臨床心理士のサイラス・ヘイヴン。彼が児童養護施設で、ひとりの少女と出会うところから本書が始まっていく。その少…
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「挑発する少女小説」斎藤美奈子著
文芸評論がこんなに面白くていいんだろうか。脳がぷちぷち刺激を受けて喜んでいる。俎上に載せるのは、19世紀後半から20世紀前半に書かれた少女小説だ。「小公女」「若草物語」「ハイジ」「赤毛のアン」などの…
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「空の王」新野剛志著
新野剛志がこういう小説を書くとは思ってもいなかった。いやあ、うれしい。 昭和11年の満州を舞台にした長編である。主人公の鷲尾順之介はパイロット。とくれば、満州の空で戦闘機の空中戦が行われる小…
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「死人街道」ジョー・R・ランズデール著 植草昌実訳
ジョー・ランズデールの略歴に、ホラー、SF、ウエスタン、ミステリーと、幅広いジャンルで活躍、とあったことを思い出す。ランズデールはアメリカの作家だが、アメリカ探偵作家クラブの最優秀長編賞を受賞した「…
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「ランチ酒 今日もまんぷく」原田ひ香著
本書のヒロイン、犬森祥子の職業は変わっている。「見守り屋」なのだ。聞き慣れない職業だが、ようするに、ワケあり客のそばで寝ずの番をする仕事。「中野お助け本舗」の社長亀山から、その仕事はまわってくる。亀…
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「海神の子」川越宗一著
反清復明を掲げて戦った英雄、鄭成功については、長谷川伸著「国姓爺」をはじめ、これまで多くの小説で書かれてきた。ところが本書を読むと驚く。これまでの鄭成功と違うのだ。では、何が異なるのか。 第…
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「探偵は追憶を描かない」森晶麿著
いきなり注文をひとつ。ラスト近く、男装の瀬莉愛が舞台に立つシーンがある。脇差しの刀に手を当てた構えのポーズで客席を見据える場面だ。ここをもっと強調してくっきりと彫り深く描けば物語に奥行きが生まれ、強…
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「血の葬送曲」 ベン・クリード著 村山美雪訳
いやあ、すごいなあ。読みはじめたらやめられない傑作だ。翻訳ミステリーの読者でよかった、と思うのはこんなときである。 1951年のレニングラードが舞台の長編だから、トム・ロブ・スミス著「チャイ…
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「旅がくれたもの」蔵前仁一著
いやはや、面白い。バックパッカーのバイブルとも言うべき「ゴーゴー・インド」(1986年)の著者・蔵前仁一が、これまでの旅で買ったり、もらったり、拾ったりしてきたさまざまなものを写真付きで紹介する本だ…
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「蝶の眠る場所」水野梓著
これはミステリーだ。しかしそう言ってしまうと、なにか大事なものがこぼれてしまうような気がする。 その話の前に、この長編の内容を少しだけ紹介すると、20年前の殺人事件の犯人は(10年前に死刑が…
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「帰らざる故郷」 ジョン・ハート著 東野さやか訳
「川は静かに流れ」「ラスト・チャイルド」の2作でエドガー賞最優秀長編賞を受賞したジョン・ハートが、またまた傑作を生み出した。それが本書だ。 1972年のノースカロライナ州の小さな町が舞台。ベト…
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「わたし、定時で帰ります。ライジング」朱野帰子著
生活残業とは、意図的に残業することで残業代を増やすことを言う。ではなぜ、そんなことをするのか。そうしなければ生活できないからだ。要するに基本給だけでは生活できないという現実がある。もうひとつは、遅く…
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「MR」久坂部羊著
MRとは、メディカル・リプレゼンタティブの略で、つまりは「医薬情報担当者」。ひらたく言えば、製薬会社の営業である。処方箋を出す医者にアプローチして、自社の薬を売るのが彼らの仕事で、厚生労働省が認可す…