北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「櫓太鼓がきこえる」鈴村ふみ著
異色の相撲小説である。なぜ異色かというと、力士が主役ではないからだ。主役は、呼び出しなのだ。しかも結びの一番で土俵に上がるような呼び出しではない。番付のいちばん下、序ノ口の取組のときに土俵に上がる呼…
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「死ぬまでにしたい3つのこと」ピエテル・モリーンほか著 加賀山卓朗訳
冒頭はショッキングだ。主人公が病院のベッドで目を覚ますと、隣のベッドには24時間前に彼に銃口を突きつけていた男が眠っていたからだ――おお、なに、それ。と思わず言いたくなる幕開けだ。 主人公の…
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「魂手形」 宮部みゆき著
第2話「一途の念」のなかに、串団子の屋台を営むおみよが富次郎を訪ねてきて、畳に指をついて頭を下げるシーンがある。手土産の団子のお礼を言われたので、おみよが思わず「お恥ずかしゅうございます」と言う場面…
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「老いた殺し屋の祈り」マルコ・マルターニ著、飯田亮介訳
オッソは、2メートル近い体格とその無慈悲さから、「熊」と呼ばれてきた男である。組織の殺し屋として、ボスのロッソの片腕として活躍してきたが、しかし60歳を越え、心臓発作で倒れてからは引退を考えはじめて…
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「インナーアース」小森陽一著
地図の制作会社を舞台にした「お仕事小説」というから、地図を作ることの大変さを描く小説なのか、と思った。 地図を作るのは、伊能忠敬の昔から今に至るまで、それはもう大変なのである。その苦労と工夫…
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「日々翻訳ざんげ」田口俊樹著
奇書である。「エンタメ翻訳この四十年」という副題の付いた本で、つまりはエンタメ翻訳の第一人者がこれまでの仕事を振り返る自伝である。その道で成功した人の自伝ならば、どこかに自慢話が潜むものだが、なんと…
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「父を撃った12の銃弾」 ハンナ・ティンティ著 松本剛史訳
父親の体には、たくさんの銃弾の痕がある。ルーはその傷痕を見て成長する。父さんの傷はどうしてあんなにたくさんあるんだろうと。旅暮らしなので、いつも友人が出来る前に引っ越す連続だが、そのことに不満はない…
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「アクティベイター」冲方丁著
中国のステルス爆撃機が「我、亡命を希望す」と交信したあと、羽田空港に突如、舞い降りる。しかも積んでいるのは核兵器、とその爆撃機の女性パイロットが言うから騒然。本書は、この緊迫した場面から始まる物語で…
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「ばあさんは15歳」阿川佐和子著
主人公は、高校入学直前の内村菜緒。母方の祖母・和を連れて東京タワーにのぼった帰り、降下のエレベーターがヘンな音を立てるのが発端。地上に降りてみたら、なんだかヘンだ。街には電線が多く、さらに空が広がっ…
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「燃える川」ピーター・ヘラー著、上野元美訳
とてもシンプルな話だ。2人の大学生、ウィンとジャックがカナダ北東部にカヌーの旅に出て、川を下るだけの話である。これがスリリングな話になるのは、町に出るまで10日はかかるのに食料が数日分しかないからだ…
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「高瀬庄左衛門御留書」砂原浩太朗著
読み始めたら、やめられない時代小説の傑作である。まず、中身の前に外側からいく。装丁がいいのだ。静かな雰囲気がゆっくりと立ち上がってくる装丁といっていい。読み終えて本を閉じると、このカバーをなでたくな…
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「羊は安らかに草を食み」宇佐美まこと著
ただいま絶好調の宇佐美まことの新刊だ。今回もたっぷりと読ませる。 二十数年前に俳句教室で知り合った益江86歳、アイ80歳、富士子77歳の3人は、これまで何度も3人旅をしてきた。これは、その3…
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「ヨンケイ!!」天沢夏月著
ヨンケイとは、4×100メートルリレーのことだ。リレーは日本語で継走といい、4人の継走は「四継」だから、ヨンケイ。 このヨンケイの不思議で、素晴らしい点は、4人のベストタイムの合計よりも、リ…
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「バイター」五十嵐貴久著
伊豆の沖合の島で、突如としてウイルス感染症が発生する。罹患すると、人の血肉を求める凶暴な存在になる(政府はそれをバイターと命名)厄介な感染症だ。なにしろ死なないのである。銃で心臓を撃ち抜いても、まだ…
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「一橋桐子(76)の犯罪日記」原田ひ香著
一橋桐子は、わずかの年金と清掃のパートで細々と暮らしている。貯金はない。身寄りもない。一人暮らしの76歳だ。これではいつか孤独死するのは目に見えている。そういうときにテレビで刑務所のドキュメントを見…
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「詰むや、詰まざるや」長谷川晶一著
「森・西武VS野村・ヤクルトの2年間」という副題が付いた本だ。1992年と1993年の日本シリーズは、この2チームが激突した。その全14試合を現時点から振り返ろうという本である。 両チームの監…
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「2016年の週刊文春」柳澤健著
とびきり面白い本を読んだ。たとえば、週刊文春1993年4月29日号に載った「山崎浩子独占手記 統一教会も私の結婚も誤りでした」の内幕話が、ちょうどこの本の真ん中あたりに出てくる、その手記を読んだ編集…
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「地べたを旅立つ」そえだ信著
前代未聞のミステリーである。なにしろ、目が覚めたら掃除機になっているところから始まるのだ。正しくは「スマートスピーカー機能付きロボット掃除機」だが、こんなミステリー、読んだことがない。 なぜ…
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「台湾博覧会1935スタンプコレクション」 陳柔縉著、中村加代子訳
1930年ごろ、台湾ではスタンプがブームであった。そのピークが台湾博覧会が行われた1935年。その特徴は、郵便と鉄道にとどまらず、レストラン、映画館、写真館、書店、文具店、印章店、薬局、靴屋、布屋、…
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「夜明けのすべて」瀬尾まいこ著
藤沢美紗はPMS(月経前症候群)に悩む28歳だ。これは月経が近づくといらいらしてきて、精神が不安定になるというもの。人によっては不安で眠れなくなったり、無気力になったりもするが、彼女の場合は攻撃的に…