「全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割」岡本雄矢著
札幌で芸人をしながらフリースタイルの短歌を作っている著者の本である。「フリースタイルの短歌」とは、五七五七七の31文字にこだわらず、自由に作るもので、たとえば本書から引用すると、「あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです」は36文字。自由なのである。
さらに特徴は、この自転車のうたで明らかなように、ひたすら小さな不幸に見舞われる日々を短歌にしていること。したがって、不幸短歌とも言われているようだ。その意味で本書収録のうたから私が個人的に選んだベスト1は以下の短歌だ。
「星空が綺麗なことで有名な露天風呂でのすごい曇天」
おお、小さな不幸をいつも招き寄せる人なら、こんなこともありそうだ。しかし中には説明がないとわかりにくいものもあり、それがこれ。
「その王は実は影武者で本物はこの銀なので勝負続行」
著者は将棋が弱いので、かなり早い段階で負けてしまい、そうなると相手が残念そうな顔をするというのだ。こんなに弱いとは思わなかった、これでは全然楽しめない、という顔になるので、その空気を変えたいと思って、こう言ってしまったというのである。しかし相手は「は?」と言ったきりその場を去っていき、全然ウケなかったというオチがつく。難しいものである。 (幻冬舎 1650円)