「マウンテンガールズ・フォーエバー」鈴木みき著
登山をモチーフにした作品集だ。5編の主人公はすべて女性である。高校生から専業主婦、アラサーの派遣女子まで、さまざまな女性が登場して山との関係が描かれていく。
どの短編も読ませるが、ここでは「クライミングジム・シンデレラ」をとりあげておきたい。語り手である二階敏子は、週に最低1回(多いときは4回)ジムに通っている。学生時代はワンダーフォーゲル部に所属していた敏子は、自宅から車で20分のところにあるジムに通ってストレスを発散している。この50代の専業主婦の鬱屈した日々が描かれていくのだが、威圧的な夫との静かな生活が絶妙に描かれていて、なかなかにうまい。
42歳の志村千穂が山岳会の仲間と八ヶ岳に行く「ザイル・パートナー」で、年下の亨との会話に(千穂は会社の後輩にプロポーズされるからモテモテなのだが、実は亨を意識している。おお、どうなるんだ)、この二階敏子の名前が出てくる。「二階女史も来ればよかったのに」と言う亨に、「二階さんは、昔ワンゲルの後輩が八ヶ岳で亡くなったとかで、それから八ヶ岳には行けないんだって。昨日ジムで言ってました」と志村千穂が答える場面だ。
その八ヶ岳で亡くなった後輩の娘が語り手になるのが「母がいた八ヶ岳」。このように、微妙に重なってつながっていく趣向もいい。
これが初の小説ということだが、構成も造形も描写もいいのでぜひおすすめしたい。
(エイアンドエフ 1870円)