「不可視の網」林譲治著
監視カメラシステム(SCS)という新しいセキュリティーシステムの実証実験のために選ばれた地方都市(姫田市)が舞台の物語である。その実験は、総務省、公安調査庁、外務省、経産省など多くの省庁がこのプロジェクトに関わり、犯罪の抑止と犯人検挙のためのものであり、そこら中に監視カメラがある社会と思っていただければいい。
多くの語り手が登場してくるが、そのうちのひとりが流れ者の船田信和。姫田駅に着いたときの残金は1010円。スマホで仕事を探すと廃屋の解体作業員を市役所が募集していたのでそれに応募する。いつもはネットカフェやカプセルホテルに泊まっているが、姫田市には空き家が多いので、そのうちの1軒にもぐり込めば宿泊費が浮く、と彼は考える。で、入り込んだ空き家でバラバラ死体を発見する──-おっと思う箇所だが、まだ物語は始まらない。
次にゴミ焼却施設の従業員となり、今度は団地の空き室にもぐり込むが、ある日仕事を終えて部屋に帰ると、いきなり腕をつかまれ、台所の床に叩きつけられる。背中を足で踏まれ、「お帰り、船っち」と言うので、顔を見ると近所のコンビニで働く川原という女性。なんで俺の名前を知っているのか。なぜ人の部屋に入り込むのか──ここから物語は予想もつかない方向にどんどん動きだしていく。紹介はここまでだ。
人物造形も、複雑に入り組んだ構成もいいが、予想外の展開がいちばん素晴らしい。
(光文社 924円)