合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明
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第二話 立場的にあり得ない(23)マイコのSNSにユナの文字
涼子ががっかりしていると貴山は、でも、と言葉を続けた。 「でも、彼女が豊岡陸と繋がっていたという証拠は残っています」 「え?」 貴山が携帯の画面を下にスクロールし、ある画面を涼子…
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第二話 立場的にあり得ない(22)桂木の瞳に動揺の色
桂木は一瞬、どうしてそんなことを訊くのか、というような顔をしたが、素直に答えた。 「豊岡陸だよ」 貴山の目が鋭くなる。それは、涼子にしかわからないほど、わずかなものだったが、たしかに貴…
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第二話 立場的にあり得ない(21)前のドラムが、自殺したんだ
貴山が口にしたロックバンドの名前に、桂木が嬉しそうに反応する。 「そうそう、それだよ」 貴山は優雅に微笑む。 「そのバンドの初期の頃の曲を、アレンジしたものでしたよね。コードは簡…
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第二話 立場的にあり得ない(20)弦をつま弾くリストの男に突撃
売店を出た桂木は、キャンパスの奥へ向かって歩いていく。やがて、ひと気の少ない中庭のベンチに座り、背負っていたギターケースから中身を取り出した。膝に抱き、弦をつま弾く。手にしているギターは、SNSのア…
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第二話 立場的にあり得ない(19)売店にリストの中の男性が
涼子は自分の腕を掴んでいる貴山の手を、乱暴に振り払った。 「そんなに強く握ったら痛いじゃない。あとが残ったらどうすんのよ」 「しっ」 貴山は自分の口に、人差し指を押しあてた。涼子…
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第二話 立場的にあり得ない(18)自分に関心がないにもほどがある
涼子は貴山に、それとなく言う。 「ねえ、あなたちょっと売店に行って、帽子でも買ってきてよ」 「どうしてですか?」 面白くないが、貴山に伝える。 「あんた、目立ちすぎ。帽子で…
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第二話 立場的にあり得ない(17)懐かしい、青春のにおい
丹波はしどろもどろになりながら、涼子に言う。 「それはそうだが、なにもしないでいるってのも、どうも落ち着かなくて──」 諦めの悪い丹波に、涼子はがつんと言った。 「冴えない中年オ…
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第二話 立場的にあり得ない(16)あんたの部下じゃないんだけど
丹波は、涼子の煽てに乗らなかった。丹波の悪いところはいくつもあるが、そのひとつに、いちど頭に血がのぼるとなかなか冷めない、というのがある。涼子の話もろくに聞かず、大声で怒鳴った。 「お前、俺が…
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第二話 立場的にあり得ない(15)ゴールド免許って嘘でしょう
貴山が別な車の購入を考えているのは、想定外だった。貴山は、上質なものは好むが、世間一般に贅沢と呼ばれるものには興味がない。車も、自分が不便だと思わなければ、見た目はどうでもいい。貴山の口から、この車…
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第二話 立場的にあり得ない(14)顔だけじゃなく、頭もいいわね
貴山は丹波からもらったリストのなかから、由奈と表面上の登録のみの関係ではなく、実際に親しくやり取りをしていた人をピックアップしたという。 貴山は画面を閉じて、自分の胸ポケットに携帯を戻した。…
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第二話 立場的にありえない(13)絞り込んだ由奈の友人は10人
病棟を出ると、涼子は病院の駐車場へ向かった。 広い駐車場には、多くの車が停まっている。そのなかから、白い軽自動車を見つけると、涼子は助手席のドアを開けて乗り込んだ。 倒れていた運転席…
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第二話 立場的にありえない(12)由奈を見て丹波の気持ちを理解
この目で由奈を見て、涼子は丹波の気持ちが少しわかった。 これくらいの年頃の多くは、若さを謳歌しているだろう。学業、恋愛、趣味なんでもいい。なにかに興味を持ち、楽しさや苦しみを前に進んでいる。…
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第二話 立場的にありえない(11)うつろな目が涼子を捉える
涼子は踵を返し、談話室へ引き返した。今日は由奈に会えないかと思ったが、ついている。部屋に入ると、ついさきほどまで座っていた椅子に腰を下ろし、由奈が来るのを待った。 やがて、由奈は談話室へやっ…
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第二話 立場的にありえない(10)携帯を見るふりして時間稼ぎ
松井は妻との思い出話を、訥々と語る。ときに微笑み、ときにどこか痛むような顔をしながら、自分と妻の半生を振り返った。 なにかで、心が弱ったときは誰かに話を聞いてもらうといい、と読んだことがある…
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第二話 立場的にありえない(9)菓子折りを嬉しそうに眺める
ひとつ目は由奈の画像を涼子に渡すこと。ふたつ目は、由奈がいる病棟へ入れる方法を考えること。みっつ目は、由奈が大学で親しくしていた友人をリストアップすることだった。 みっつ目は、少し時間をくれ…
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第二話 立場的にありえない(8)由奈はロック式ドアの閉鎖病棟
涼子の声が聞こえていないのか、聞こえていても頭に入っていないのか、丹波は満悦の体で頷いている。 掌のうえで転がされているようで、なんだか面白くない。涼子は丹波のほうへ身を乗り出し、きつい口調…
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第二話 立場的にありえない(7)あの子を助けてやってくれ
涼子の視線から、なにを考えているのか察したのだろう。丹波は気まずそうに、首の後ろを掻いた。 「うちの坊主を思い出してよ」 前に丹波から、息子がひとりいる、と聞いたことがある。思えば、丹…
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第二話 立場的にありえない(6)手首を切ったのは1年生の夏
丹波が、由奈が警視庁の組織犯罪対策部部長、五十嵐の娘だと知ったのは、一週間後だった。その日、丹波は用事があり、入院している老人を再び見舞った。 「病棟のフロアに行ったら、またその子が同じ場所に…
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第二話 立場的にありえない(5)いったいどんなメリットが?
丹波が口ごもる。 「なんでわかったんだよ」 「あんたが金持ってないことなんか、よく知ってるわよ。それに、病を患っている人を利用するのも気がすすまない。この話はもう終わり。帰って」 …
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第二話 立場的にありえない(4)その子をお前に助けてほしいんだ
貴山がじろりと睨む。 「お静かに」 丹波は面倒そうな顔で、犬を追い払うように、貴山に向かって手を振った。 「わかったよ。トノが怯えるってんだろう。悪かったよ」 「トノではあ…