「日本おとぼけ絵画史」金子信久著
そしていつしか布袋と一緒にふわふわと、宙に浮かんでいるかのように心の凝りがほぐされていく。
もう一枚、岩井江雲の「達磨図」に至っては、なんと禅の始祖がこちらに向かって「あっかんべぇー」をしているとしか思えない姿で描かれている。
鹿の顔がシュールな味を醸し出す三浦樗良の「双鹿図」など、お高くとまった芸術への反骨心を秘めた俳画も、禅画に負けず劣らずのおとぼけ具合で魅了する。
有名な「動植綵絵」のようにリアルを極めた画風で知られる画家・伊藤若冲も、伏見人形の布袋を描いた「伏見人形図」のように子供のパステル画のようなほのぼのとした作風の作品を残している。
他にも歌舞伎の名場面を演じる役者を描いた大坂の画家・耳鳥斎の画集「絵本水也空」のギャグマンガの登場人物たちのような絵や、愛くるしさやおかしみとは異なり「苦み」を感じさせる祇園井特の「美人図」や岸駒の「寒山拾得図」など江戸時代の作品から、蛭子能収や湯村輝彦ら現代のヘタウマ作品まで。おとぼけ絵画の歴史を一望していると日本のマンガ・アニメ文化の源流を見るような気にもなってくる。