「日本おとぼけ絵画史」金子信久著
「へそまがりな感性」が生み出した魅力作
正統的、伝統的な日本美術の本流からは、ちょっとずれてはいるが、なぜだか見る者の心を奪って離さない、そんな絵画の数々を紹介する異色アートガイドブック。
人は、世の中の価値観とはずれた意外なものに魅力を感じたり、心引かれたりすることがある。その「へそまがりな感性」が実は魅力的な美術を生み出すのに欠かせない原動力になってきたと著者は言う。本当にこれでいいのかと考え込んでしまうような絵でも、一方に手の込んだ立派な絵があるからこそ、それを否定し飛び越えることの痛快さを、見る者の心に与えてくれるからだ。
日本の美術史に点在するそんな「へそまがりな感性」によって生み出されてきた作品の数々を鑑賞していく。
まずは見る人を別世界へといざなう禅画を取り上げる。禅問答のように禅の境地を表す言葉は、一般の人間にはちんぷんかんぷんだが、そんな言葉や理屈を超えて一瞬で禅の何たるかを感じさせるために禅画は描かれてきた。
とはいっても、やはりそこは禅の世界。禅僧の春叢紹珠による「皿回し布袋図」は、布袋さまが不安定な袋に乗って皿回しをしている姿を描いているのだが、「皿の中の水をこぼさなければ、いつもこの身は豆蔵(曲芸師の通称)じゃ」という意の賛を読んでもその真意はさっぱり分からない。でも、なぜだか、目が離せない。