「UnseenFaces,UnheardVoices」Livingston&MiyakoArmytage著
国家という枠の外で生きざるを得ない世界で最も貧しい人たちを撮影した写真集。
オーストラリアの弁護士で写真家の著者は、アジア諸国の裁判所を支援し、公正な社会を築き上げる活動をしている。本書に収められているのは、その活動の最中で出会った人々のポートレートだ。
冒頭に登場するのは、カンボジア・プノンペンの公共ゴミ捨て場スタン・ミンチェイで枯れた花を集めていた少女ラックだ。6歳ぐらいと思われるこの少女は、出生届が国に登録されておらず、公的にはこの世にいない存在であり、年齢を知るすべもない。
彼女が特別なわけではなく、このような子どもたちは何十万人もいるという。
クメール・ルージュによる大虐殺の影響が今も残るこの国では、権力者が富を手にする一方で、こうした貧困層がその日その日を何とか暮らしている。
有毒ガスが出るこのゴミ捨て場の横のバラックには、数百の家族が暮らしており、彼らが1ドルを稼ぐためには、毎日、ゴミの山の中を20キロも歩き1700本の空のペットボトルを集めなくてはならないという。
その他、世界の工場と化したカンボジアの縫製工場で最低賃金で働く女性たちや、セックスワーカー、HIVホスピスで死を待つ男性、そしてHIV孤児など。
栄養も教育も医療も雇用の安定も、本来は国によって提供されるサービスをまったく受けることなく、明日への希望も期待もないまま、その日その日を送っている人たち。しかし、誰もが沈鬱でやりきれない表情をしているわけではない、彼らの瞳には不公平な社会への憤りとともに人間の誇りと尊厳が宿っている。
ネパールでは、カメラは南部の農業平野「テライ」に住む民族的政治的マイノリティーの「マデシ」に向けられる。彼女たちはカーストの最下層の「ダリット(不可触民)」でもあり、日常的な家庭内暴力や性的暴力の被害者だという。
その他、アフガニスタンとパキスタンを加えた主に4カ国で暮らす人々の置かれた現実を129枚の写真で伝える。
アフガニスタンの難民キャンプで出会った少女は、47度という暑さの中、ビニールシートの上に座って身じろぎもしていなかった。著者がカメラを向けると母親に言われて彼女は力なくほほ笑んだというが、その瞳に宿る深い絶望が、どんな言葉よりも、彼女と、そしてこの本に収まる人々の置かれた過酷な日々を雄弁に読者に物語る。
しかし、著者は彼らが抱える絶望だけを伝えたいわけではない。最後のページには10年後、援助を受けて学校に通い始めた、見違えるような姿のラック(その後わかった本名はボーレアーク)のはじけるような笑顔の写真が添えられている。
彼女の笑顔が、わずかな助けを得ることで彼らがその地獄から抜け出し、負の連鎖が止まることを教えてくれる。
(IBCパブリッシング3400円+税)