「猫たちとニューヨーク散歩 久下貴史作品集2」久下貴史/画 ジャパン・アーチスト株式会社/文
ニューヨークを拠点に創作活動を続ける画家が、愛猫とニューヨークの風景を題材に描いてきた作品を集成した作品集第2弾。
1986年夏、遊びに出かけたニューヨークを気に入り、その年の暮れには移住したという著者。6年後、親しくなったサンドイッチ屋の主人が「1人では寂しかろう」と1匹の子猫をくれた。それがフェデリコだ。
猫は好きではなかったが、フェデリコとの同居で猫に魅せられ、雌猫の「ミケランジェラ」やタキシード柄の「マーベリック・クマ」、アメリカンショートヘアの雑種「シゲオ」など、次々と「家族」が増え、一時は家長のフェデリコを中心に5匹もの猫と一緒に暮らしていたこともあるという。
残念ながらフェデリコは2010年に死ぬが、画家は「フェデリコの姿なら、100でも1000でも、描こうと思えばいくらでも描ける」という。
その言葉通り、家長を偲んでそのさまざまな姿態を描き込んだ「フェデリコの記憶(A)」、フェデリコが一緒に暮らしたほかの猫たちと仲むつまじく過ごす姿を描いた「フェデリコの記憶(B)」という連作を見ただけで、画家の猫への愛情と、猫同士の関係がよく分かる。
アパートのお気に入りのらせん階段に座る猫や、アパートの屋上からエンパイアステートビルのライトアップを楽しむ猫(写真①=作品名「らせん階段の家」「屋上は特等席」)など、猫との暮らしを題材にした作品が並ぶ。
やがて、猫たちは部屋を飛び出し、まるでニューヨークの街を案内してくれているかのように、セントラルパークの広大な芝生エリア「シープメドウ」を独占してくつろいだり(「早春のシープメドウは僕たち専用」)、マンハッタンとブルックリンを結ぶ「ブルックリン橋」の欄干に並んだり(「一体全体ここで何しているんだろう?!〈ブルックリン橋〉」)、人気テレビドラマによく登場するお菓子の店に立ち寄ったり(「美味しいよ!〈マグノリア・ベーカリーにて〉」=写真②)と、街の風景に溶け込む。
久下家の猫だけでなく、オペラシーズン開始にオペラの登場人物に扮した大勢の猫たちが「メトロポリタン歌劇場」の前に集結する「オペラ祭り群衆猫」や、ホテルの看板猫を描いた「アルゴンキンホテルのマチルダ」、ユニオンスクエアのクリスマスマーケットに現れた天使の扮装をした「猫聖歌隊」(写真③)として、街に暮らす猫たちも多数登場させながら、ニューヨークの一年を季節の移り変わりとともに描き出す。
しかし、中には猫が1匹も描かれていない作品もある。
秋のマンハッタンを眺望する「猫のいない風景、みけちゃんの最期の秋」は、この絵が描かれた数カ月後に亡くなったミケランジェラの視点から描かれた作品。静かな秋の風景が画家の喪失感の深さを伝える。
各作品に作品の背景やロケーションを紹介する詳しい解説がつき、猫たちとともにニューヨークの空気を伝える。猫好きにはこたえられない作品集だ。
(新評論 3800円+税)