日本の印鑑のために約72万頭のアフリカゾウが密猟
日本から遠く離れたアフリカでゾウの密猟が急増し、十数年後には絶滅してしまうかもしれないほどの危機にさらされている。密猟者のお目当ては、象牙である。そして、その闇取引の歴史には、日本も深く関わっていた。
三浦英之著「牙」(小学館 1600円+税)は、第25回小学館ノンフィクション大賞受賞作。新聞記者で元アフリカ特派員の著者が、アフリカにおける象牙マーケットの全貌を明らかにしている。
1940年代には500万頭いたとされるアフリカゾウだが、2010年代までには約10分の1にまで激減している。2000年代に著しい経済成長を遂げた中国では、象牙が“成功の証し”として買い求められ、爆発的に需要が伸びている。その特需を受ける形でゾウの密猟も激増し、1キロ当たり2000ドルで闇取引されているという。
しかし、象牙との関わりは日本の方が古い。その消費を爆発的に増やした最大の要因は、戦後に急増した印鑑素材への転用である。象牙は「幸運を呼び込む印材」として人気を集め、1980年代には世界の象牙の約4割を消費。約72万頭ものアフリカゾウが、日本人の印鑑などのために命を奪われた計算になる。
本書では、象牙の密輸とテロ組織の関係にも迫っている。例えば、ケニアで学生ら148人を殺害したテロ事件で知られるアル・シャバブは、活動資金の40%を象牙の密輸で稼ぎ出しているという。その莫大な資金が武器に化け、市民の命を奪う。象牙を買うということは、その片棒を担いでいることと変わりはない。
ショッキングな内容だが、日本人とは決して無関係ではなく、そして知らなかったでは済まされない真実だ。