19歳上の映画監督と結ばれ半世紀を添い遂げた八千草薫
<1957年7月>
「今度は終わりをまっとうしたいってことかな」
記者の「新婦に何をしてあげたいですか」との質問に、式を終え会見に臨んだ新郎の谷口千吉監督はこう答えた。
7月21日、丸の内の東京会館で、谷口と八千草薫の結婚式が開かれていた。谷口にとっては3度目の結婚。今度こそ最後まで添い遂げたいと決意を表明したのだった。
26歳の八千草は“お嫁さんにしたい有名人”アンケートでトップに選ばれていた。片や谷口は19歳も上の45歳。人気絶頂の女優が親子ほども違う相手と結ばれたことに世間は驚いた。
谷口がメガホンを取る映画「乱菊物語」に、宝塚歌劇団に在籍していた八千草が主演したのがきっかけだった。口が悪いことで知られていた谷口は八千草に対しても厳しかった。助監督の岡本喜八が「あんなに叱ったら宝塚に帰ってしまう」と心配したほど。しかし、思ったことをズバズバ言う男性が、八千草にとっては新鮮だった。2歳の時、肺結核で亡くした父の面影を見ていたのかもしれない。八千草は次第に谷口にひかれていった。