黒部進さんを俳優へと導いた山本嘉次郎監督“鶴の一声”
靴磨きは食べるためです。なぜか渋谷の“顔役”に気に入られて、当時、有名な待ち合わせ場所だったユーハイム前で商売することを許されました。そんなある日、メガネをかけた紳士が僕の前に座り、靴を磨き始めたらこう聞いてきた。
「君は何をしてる人なんだ?」
「役者になりたくて芝居をかじってるんです」
「そうか。今度、オール東宝ニュータレントの試験があるから受けてみないか」
その人は、東宝の監督で東宝演技研究所所長もされていた山本嘉次郎さんでした。成城にお住まいで、当時、西新橋にあったNHKのクイズ番組に出演するため、普段は渋谷で降りて渋谷からタクシーに乗っていたけど、その日は時間があって靴をきれいにしようと思ったらしい。靴磨きは大勢いたのに、座ったのがたまたま僕の前。これが運命の出会いです。
そして勧められるまま試験会場に行ったら、なんと審査委員長が山本さん。これにはビックリでした。ただ、そうはいってもまさか合格すると思っていないから、試験後も生活は相変わらずで友人宅を転々としていた。