不倫騒動の中村芝翫 “ねじれ襲名”で舞台の上でも前途多難
10月の東京は、3劇場で歌舞伎が興行されている。3劇場をまわると、歌舞伎の多様性がよく分かる。
歌舞伎座は中村芝翫襲名披露興行。橋之助が父の名である芝翫を八代目として襲名した。直前に不倫騒動が起きたが、家庭内で何があったかはともかく、橋之助は堂々と芝翫を襲名し、役者たちは祝福した。
「芝翫」を「しかん」と読める人は一般には少ないだろう。先代の七代目芝翫は女形だったので、歌舞伎ファンの間では名優として知られていたが、テレビや映画に出る機会もなく、知名度が低かった。
新しい八代目芝翫は立役だが、七代目(父)は女形だったので、「父の名」は継ぐが、「父の芸」は継がないという、ねじれた襲名となった。新しい芝翫が襲名にあたって選んだのは「熊谷陣屋」(夜の部)で、幕末から明治前半にかけて活躍した四代目芝翫の型を復活させたのが、見どころ。たしかに、これまで見慣れていた「熊谷陣屋」とは印象がだいぶ違う。
「先代(父)とそっくり」であることをアピールし、血と芸の継承を披露するのが普通の襲名だが、今回はそういう要素は希薄で、それだけに、新しい芝翫の前途はなかなか大変である。襲名披露は来月も、違う演目で行われる。