「旅立つ息子へ」監督語る 主人公の無名新人は第2のレオに
今月26日公開の映画「旅立つ息子へ」(ロングライド配給)は、出会いと別れの春にふさわしいヒューマンドラマ。自閉症スペクトラムの息子・ウリと、その世話をするために現役バリバリのグラフィックデザイナーというキャリアを捨てた父・アハロンの2人が主人公である。しかし、発達障害の実態を描いたドキュメンタリーでもなければ、当事者たちの苦闘にスポットを当てた社会派作品でもない。あくまで父と息子の日常が紡ぐ物語だ。脚本を手掛けたダナ・イディシスも「必ず訪れる親子の別れについての映画」と語っている。
メガホンをとったニル・ベルグマン監督は東京国際映画祭史上初にして唯一、グランプリを2度受賞(02、10年)した実力派。いずれも家族との関わりや心の機微を丁寧に切り取り、見る者の感情を揺さぶる“泣かせの監督”だ。
作品の要ともいえるキャスティングには、独特の感覚を持っている。障害を抱える難役に無名の新人、ノアム・インベル(22)を起用。1次オーディションの時から光った存在だったそうで、ベルグマン監督は「父親役との相性も抜群だった」と振り返る。
「カメラ越しの2人が醸し出す雰囲気で決まりました。レンズに映し出された途端、相性がいいとマジックが起こるんです。それは説明のしようがなく、予想も不可能。マジックが起きたら、たとえ監督であろうとも否定してはいけないものなんだ」
レオナルド・ディカプリオの再来
本国イスラエルのアカデミー賞では主演男優賞、助演男優賞含め4冠を達成した。
ノアムには「ギルバート・グレイプ」(1993年)で知的障害を持つ少年役を演じ、脚光を浴びたレオナルド・ディカプリオの再来との呼び声も高いという。若き日のディカプリオは「タイタニック」をメガヒットに導き、ハリウッドスターの仲間入りを果たしている。監督が発掘したシンデレラボーイも、スター街道を駆け上がるのだろうか。
「もちろん! 魅力ある役者だから、今後もキャリアを着実に積んでいって欲しいよ。けどね、ノアムはまだ英語がつたないんだよ(苦笑い)。レオのようになるには、まずは英語がペラペラにならなくちゃいけないよね」
役者を続けながら本国イスラエルでの兵役を終えたばかりという伸び盛りの22歳。ハリウッドに旅立つ日はそう遠くはないかもしれない。
(取材・文=小川泰加/日刊ゲンダイ)