南杏子さんが語る 編集者から海外居住、内科医、小説家までの紆余曲折

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南杏子さん(作家・内科医/60歳)

 5月に公開された映画「いのちの停車場」(吉永小百合主演)の原作者で、ワイドショーにも登場する南杏子さんは編集プロダクション→海外居住→内科医→小説家というユニークな経歴の持ち主。紆余曲折の人生のターニングポイントは……。

 ◇  ◇  ◇

 最初に通ったのは日本女子大学。卒業後はマスコミの仕事をしたくて編集プロダクションに入りました。結婚後は新聞記者の夫が勤務する函館に移って地元の出版社に入り、数年後に東京に戻ってからは主婦の友社で育児雑誌の編集者になりました。

 夫が会社から派遣される留学制度でイギリスに2年間住むことになり、私はそのうちの1年間を産休と育児休暇の両方を使ってイギリスで暮らすと決心。東京に帰ったらまた編集の仕事に戻ればいいし、海外に住む間は出産と子育てに専念しようと。

■学士入学制度を新聞記事で見て医者になろうと

 イギリスは公的医療サービスは無料で受けられますが、受診の機会は限られるため、娘の健康状態が気がかりで医学書を熟読しました。子供の頃から人体図鑑が大好きだったし、医学はもともと好きなんです。

 やがてアロマセラピーの学校に通い始めました。ハーブから精油を抽出していい香りを使ってストレスを減らしたり、体の不調を直したりと幅広く治療するのがアロマセラピー。写真はロンドン郊外のハーブガーデンです。とてもいい香りで大好きになり、アロマセラピストの国際資格を取る間に学習熱もさらに高まりましたね。

 帰国前、大学の別の学部を卒業した人が医学部に編入できる学士入学という制度を新聞記事で知り、「これなら私もチャレンジできる」と本気で医学を学ぶため、東海大学医学部に入学。学費ローンも50代まで組めると書いてあったし(笑い)。

 だから、私の人生を変えた最初の瞬間はこの記事を見て、「医者になろう!」と決意した時でした。

患者や医療従事者の悩みを知ってほしいと作家に

 当時、東海大学医学部は入学生の約100人中20人が学士編入でした。薬学部を出たとか、理系出身者も多く、20人の年齢はバラバラ。

 医学部を卒業して医者になった時は38歳。現役で医大に入って医者になると24歳ですからかなり遅いデビュー。でも、初めて診察した時、患者さんは「偉い先生が来た」と勘違いしてくれたみたいで、ものすごく丁寧な話し方をして(笑い)。私は申し訳ない気持ちでした。でも、私は年齢がある分、患者さんの気持ちがわかる新人だったと思います。

 その後、夫の仕事でスイスのジュネーブにも住みました。現地の日本人がつくる医療福祉互助会の顧問医を務めたりWHO本部で日本人医師や国際会議のお手伝いをしたり。

 また、日本に戻ってからは高齢者のための病院に勤めています。入院患者さんの平均年齢が89歳で、ほとんどの方が病院で亡くなられるのですが、例えば100歳の親が亡くなっても、70歳の子供は「まさか親が亡くなるなんて!」と言うんです。

 親御さんとの別れにすごく苦しんだり、ストレスが大きくて死を受け入れられない方の中には「医療が悪いんじゃないか」と医療や従事者の方にやるせない思いをぶつける人もいる。一方でいいお話やいい言葉を聞かせていただくこともあります。それを私だけのものにせずに「同じように苦しんでいる方に知っていただければ……」と思った瞬間が人生2つ目の分岐点です。それを小説に書くようになりました。たしか約10年前で40代の最後の頃でした。

■「いのちの停車場」が映画化

 デビュー作「サイレント・ブレス」が出版された時はうれしくて。テーマの終末医療はあまり世間に知られてなかったので、医師としてもうれしく思いました。「若い人と同じ治療をすることが本当に高齢の患者さんにとっていいことなのか?」と問いかけたかった作品です。静かに最期の時を迎えていただく医療もあると伝えたくて。

 今年、「いのちの停車場」が吉永小百合さん主演で映画化された時はさらにうれしくて。

 今月発売の「希望のステージ」は病気を抱えながら舞台を目指すいろんな患者さんが登場し、その人たちを医師を含めみんなで支えていく物語です。今後も医師と並行して執筆を続けていきたいと思っています。

(聞き手=松野大介)

▽南杏子(みなみ・きょうこ)1961年、徳島県出身。2016年、作家デビュー。医療関連の小説多数。著作に「サイレント・ブレス」「ディア・ペイシェント」(ともに幻冬舎)など。新刊「希望のステージ」(講談社、9月15日発売、税込み946円)。「いのちの停車場」の著者が贈るもうひとつの感動作!

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