飯野矢住代誕生秘話<22>周囲に歓迎されなかったスター歌手Sとの儚い恋
恋の遍歴を重ねてきた飯野矢住代にとって、「歌手S」は特別な存在だったかもしれない。これまでの本命は主に大学生やバンドマン。心理的に矢住代が優位に立ってきたはずだが、Sはれっきとした芸能人。アイドル的な人気者で、紅白歌合戦にも出場するスターだった。有名芸能人との交際と言うと、4年前にザ・タイガースの加橋かつみとの交際も取り沙汰されたが、このときはタイガースもデビュー間もなく、飯野矢住代もミス・ユニバース日本代表に選ばれる直前だったため、双方とも駆け出しの存在、スキャンダルと言うより“若い2人の恋”として周知されたにすぎない。しかし今は違う。Sが人気歌手なら矢住代も世間を騒がせる小悪魔。マスコミにとっては格好のネタとなったのは言うまでもない。
出会いはSが「姫」を訪れたことに起因する。意気投合した2人の初デートは江の島までドライブ。矢住代の回想がある。
「約束の時間より三十分も前に来て、あたしを待っていてくれた。それに彼は方向オンチでよく道をまちがえるの。そのたびに“ゴメンネ、ぼくって頼りなくて……”そういってあやまるの。そんな彼の子供っぽい言葉が、あたしはたまらなくすきだった」(「週刊ポスト」1971年6月11日号)