テレビはなぜ腐ったのか…元テレビ朝日“中の人”がえぐる闇と問題点、そして未来
現実離れした“こうあるべき”のウソは視聴者に見抜かれている
──今後は深夜番組にも変化が起きるのでしょうか。
「もともと深夜枠は比較的予算をかけて実験的に放映するチャレンジ枠です。そこで人気が出るとゴールデン帯に引っ越しとなった。深夜枠は自由な雰囲気こそ魅力でしたが、ここも予算がなくなり、過去のエビデンスがあるものに走りがちになります。結果的に、人気番組の焼き直しみたいな企画しか通らず、新たな番組が、生まれない。制作的に閉塞感が広がるでしょう」
──なぜこうもテレビが衰退したのでしょうか。
「テレビ局内にあるいくつものピラミッドからくる“思い込み”だと思います。テレビの世界は、キー局が一番偉い、局員が高給取りで偉い、男社会でプロデューサーに女性は極端に少ない。テレビを支えるCMのメイン商品は女性のためのものばかりなのに、ピラミッドの頂点のオジサンたちの思い込みで制作されています。トレンドに皆が飛びついたバブル時代と異なり、これだけ多様化した今、十把ひとからげに“女性に人気”“Z世代に刺さる”というのも無理な話。ユーチューブやSNSに負けるのも無理はないと思います」
──ではどんな番組が救世主になりうるとお考えですか。
「人気番組の共通点は“リアル”と“パーソナリティー”。テレビだけが偉いという幻想を捨てて、足で稼ぐべきで、僕は足で稼ぐ“頼りないADくん”がテレビを救うと考えています。『オモウマい店』とか『家、ついて行ってイイですか?』とか『月曜から夜ふかし』は若いADくんたちがひたすら街に出て足で稼いだVTRがあってMCが料理している。
頼りないADくんたちのけなげさに皆が手を貸し、リアルな表情が映像に出る。ユーチューブも同じで、出演・編集すべてセルフで粗削りだけど、リアルだから共感を得ている。テレビ局がつくった現実離れした“こうあるべき”のウソは視聴者に見抜かれているから低迷しているのです」
「ユーチューブやSNSを含め、映像メディアがこれだけ増えた今、テレビは特別なものでないし、公平性など期待されていないのではないでしょうか。日本オンリーで制作する必要はないし、制作陣の多様化が結果的に言論の自由を生むと思います。常に海外に売れるコンテンツを考えてきた韓国はスポンサーもたくさん集まり予算も増え、好循環ができているので研究に行こうと思ってます。自分の若い頃のようにチャレンジを楽しみ、テレビに関わるスタッフが生活を心配しなくても済むテレビ界に変わる一助になれたらと思います」
(聞き手=岩渕景子/日刊ゲンダイ)
▽鎮目博道(しずめ・ひろみち) 1969年広島県生まれ。大学卒業後テレビ朝日に入社。ディレクター、プロデューサーとしてニュース番組「スーパーJチャンネル」、情報番組「スーパーモーニング」、ニュース番組「報道ステーション」などを担当。ABEMAの立ち上げにも携わる。19年にテレビ朝日を退社し、フリーディレクター、大学講師などで活躍。新著に「腐ったテレビに誰がした?『中の人』による検証と考察」(光文社)がある。