【特別対談】南野陽子×松尾潔(2)芸能の仕事をやっていなかったら…「『バツ2の事務』とか(笑)」

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■「しゃぶしゃぶの食べ方」は勝新太郎さんに教わった(南野)

南野 そうです。菅原文太さん、緒形拳さん、森繁久弥さん……。どのみち、最初は鉄仮面をかぶってたんだから、何が起きてもOKなところはあるんですけど(笑)。

松尾 鉄仮面育ち(笑)。

南野 それに、これはお芝居ではないんですが、デビューしてすぐクイズ番組のアシスタントをやらせていただいて、その番組のレギュラー解答者が勝新太郎さんで(笑)。

松尾 え! じゃあ、勝さんと毎週お会いしていたんですか?

南野 そうです。収録後に銀座に連れてっていただいてたし、しゃぶしゃぶを食べに「ざくろ」に連れてっていただいたときは「しゃぶしゃぶの食べ方」を教わって(笑)。

松尾 僕も同世代の芸能人の知り合いは多いけど「勝新さんと定期的に会っていた」っていう人はさすがに初めて。ところで、勝さんは「しゃぶしゃぶの食べ方」をどんなふうに指南するんですか?

南野 独特なんです。「あのな、しゃぶしゃぶって3秒っていうけどな、本当は6秒だ」とか言われて、「今だ!」って(笑)。

松尾 勝新さんの「今だ!」は強力(笑)。

南野 そうこうしていたら、(中村)玉緒さんが迎えに来るんです。

松尾 「玉緒さんが迎えに来る」ってフレーズもシビれるなあ。貴重な経験をされてますね。

南野 39年もいますとね(苦笑)。

■オリコン連続1位が途絶えて「あ、芸能界辞めよう」って思った(南野)

松尾 ただ、今になって南野さんの往年のヒット曲を聴いていると、売れるべくして売れたってこともわかるんです。端的に言うと「いろんな人が一緒に仕事したくなる歌い手さん」ってこと。何よりワンフレーズでわかるチャーミングな声。声域は決して広いわけではないんだけど。

南野 そう、声域は狭いんです。「夜ヒット」のオープニングのメドレーで(中森)明菜さんの曲を歌うのが、本当に大変で(苦笑)。

松尾 歌手の声域がどんなに狭かろうと、その中でオーダーメイドの名曲を書くのが職業作曲家の仕事だから。音符の選択が限られるぶん、聴き馴染みのいいメロディーに仕上がる確率はむしろ高まるのかも。声域の狭さが転じて武器になるってこと。つまり、ヒット曲の条件が備わってくるんですよね。

南野 でも、プレッシャーも大きくて。「楽園のDoor」から8曲連続でオリコンの1位だったのが、9曲目で2位に落ちたときに「あ、芸能界辞めよう」って思ったくらいで。

松尾 「もう、足を洗おう」って?

南野 そう、早めに一般に戻ることを考えて、喫茶店でバイトを始めましたから(笑)。

松尾 その話、どこかで小耳に挟んだんですけど、実話だったんですね。

南野 ドラマの撮影が少し遅れて、3日だけオフができたんで「実家に帰ろう、ついでにバイトしよう」って、友だちに頼んで探してもらったのが、地元のカフェ、時給650円(笑)。

松尾 実際に働いたんですか?

南野 働きました。でも、人がわんさか来て、3日目にはそこの店舗の社長がハイヤーで迎えに来たりして(笑)。

松尾 さすがにそのときは「これ、もう堅気の仕事はできない」って悟ったでしょう?

南野 逆です。「いけるな」って思いました(笑)。実際、楽しかったし。

松尾 では、もし芸能のお仕事やってなければ、何をしていると思いますか?

南野 何だろ?「バツ2の事務」とか(笑)。

松尾 設定がリアルすぎ! それってお友だちの誰かを思い浮かべてるんじゃ?(笑)

南野 そうかも。それも派遣で「会社通さずにやって」って要求したりして(笑)。

松尾 もう、マイりました! =第3回につづく

(構成=細田昌志 取材協力=新宿「風花」)

▽みなみの・ようこ 1967年6月23日生まれ、兵庫県出身。85年「恥ずかしすぎて」でデビュー。主演ドラマ「スケバン刑事Ⅱ」で注目され、歌手、女優として活躍。伝説の歌番組「ザ・ベストテン」(TBS系)への出演映像を収録したブルーレイBOX「南野陽子ザ・ベストテンコレクション」が発売中。

▽まつお・きよし 1968年1月4日生まれ、福岡県出身。早大卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。近著「おれの歌を止めるな」(講談社)が発売中。

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