目を見張る市川團十郎の13役“ワンマンショー” 「星合世十三團」に客席どよめく
6月は博多座で、尾上松也の伊右衛門、尾上右近のお岩・小仏小平・佐藤与茂七で『東海道四谷怪談』が上演された。2人とも初役だったが、堂々と演じ、怪談ものを超えた、凄絶な悲劇を作り上げた。今年の前半、この2人は、とくに地方で目覚ましい活躍をした。そして7月、2人は歌舞伎座に帰ってきた。
松也と右近が出るのは夜の部『裏表太閤記』。43年前に三代目市川猿之助(二代目猿翁)によって作られ、昼・夜通して上演されたものを、圧縮して夜の部だけで上演。「表」にあたるのが、松本幸四郎が演じる豊臣秀吉の物語で、「裏」として明智光秀による本能寺の変、水攻めにあう備中高松城の話などが描かれるという趣向。
序幕は光秀(尾上松也)、信長(坂東彦三郎)、信忠(坂東巳之助)、光秀の妹で信忠の愛人お通(尾上右近)の物語で、これは政治劇と活劇、さらには恋愛劇として見ごたえがあった。
二幕目が、備中高松城が秀吉によって水攻めにあっている話で、城主の軍師(幸四郎)とその息子(市川染五郎)のドラマなのだが、いまひとつ緊張感がなく、ゆるい。後半、幸四郎が秀吉となって登場し、軍師の息子とともに光秀と滝の中で対決するのだが、二対一になっても、松也の光秀のほうが強そうで、負けたようには見えなかった。この芝居でも、松也、右近が際立つ。