広島発“女性が涙する”映画 現役ストリッパーが語る舞台裏
若い女性が映画館に訪れては涙する――そんな口コミで人気に火が付き、地方興行から全国公開に“格上げ”された映画がある。「彼女は夢で踊る」(アークエンタテインメント配給、時川英之監督)がそれだ。広島市中区の歓楽街・薬研堀にある老舗ストリップ劇場「広島第一劇場」を舞台とした作品で、閉館の危機が迫る老舗劇場の社長(加藤雅也)が、ダンサーとの秘密の恋を振り返るストーリー。美しくて切ない物語が心をくすぐるのだ。
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同作品は2016年の年末に加藤と時川監督が交わした雑談から生まれた企画。第一劇場のステージに立つ現役ストリッパーの矢沢ようこが、ベテランの踊り子「ようこ」として出演している。時川監督からは「普段どおりでいい」とアドバイスされたというが、本人は複雑な心境だったようだ。
「裸になることは、私の生きがいであり、生きざまでもあるのですが、『矢沢ようこ』の名前でステージに立っているときは素の自分ではない。『矢沢ようこ』を演じているのです。だから、『普段どおり』と言われても、戸惑う面がありました。改めて“矢沢ようこって何?”って考えさせられましたね」
芸名は、母親がファンだった歌手・矢沢永吉の娘の名前にちなんだもの。その存在は素の自分から見ても特別であり、「憧れの女優」という位置付けだ。ただし今はまだ、理想とする「矢沢ようこ」を舞台で演じられていないと感じている。それだけに監督の要求を消化しきれずに悩んでいたのだ。
そんなモヤモヤを打ち消したのが“加藤雅也塾”だった。クランクイン前の一週間ほど、演技指導を受けたという。
「加藤さんからは、何度も何度も『台本は見るな』と言われました。台本に頼り過ぎると台詞が棒読みになり、生身の人間が発する言葉にはならないと教えられたのです。それでも監督からは未だに『ファーストシーンは酷い、あれはない』ってネチネチと言われてます。もし加藤塾に入塾していなかったら、私の演技は見れたものではなかったと思います(苦笑い)」
なぜ涙を誘うのか?
昭和の全盛期は遠い昔となり、ストリップを取り巻く環境は激変した。全国に300軒ほどあったとされる劇場は現在、二十数軒が残るのみ。客層も様変わりし、女性のひとり客や友達同士、カップルも足を運んでいる。女性の裸に飢えた中高年男性だけがせっせと足を運んだ時代は終わったらしい。
踊り子たちは前盆の上でスポットライトを浴びながら、10分程度の時間内で世界観を表現する。ポージングが決まった瞬間は指先にまで魂が宿るという。息をのむ瞬間であり、妖艶だ。それでいて見る側をセンチメンタルな気分にするから不思議だ。映画の中で矢沢が踊るシーンにも、大勢の人が涙する。
「私の心の奥にある悲しみや切ない気持ちが、全身からにじみ出てしまっているのかな。恥ずかしいですね。でも、涙は心の浄化ともいいます。映画を見たお客さまがデトックスして帰っていただけるのなら、こんなにうれしいことはありません。映画も、劇場でのストリップも、エンターテインメントです。性別問わず、気軽に見ていただけたら……。なんなら、モゾモゾもしてください。とっても健全なことですから」
新型コロナウイルスの感染状況を鑑みて、全国公開は20年秋に変更された。紅葉の季節が楽しみだ。
(聞き手=小川泰加/日刊ゲンダイ)
▽やざわ・ようこ 静岡県出身、1996年AVデビュー。ギルガメッシュないと(テレビ東京系)へのレギュラー出演を機にストリップへ挑戦。04年に一度休業するも、09年に復帰。近年は映画やMVなどの出演も増えている。
映画「彼女は夢で踊る」
主演:加藤雅也
出演:犬飼貴丈 岡村いずみ 横山雄二 矢沢ようこ
監督・脚本・編集:時川英之
公式HP:http://dancingdreams.jp/