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中川恵一東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

渡瀬恒彦さんのケース<下> 余命は短めに告知されることも

公開日: 更新日:

 目の前の患者が、研究対象となった患者と同じ病状であるはずはなく、医師は「神」でも「占い師」でもありません。余命告知には、限界があるといえます。

 がんで亡くなる人は年間37万人を超え、死因のトップ。心筋梗塞や交通事故などのように突然の死ではなく、“ゆっくりと迫りくる死”という点で、ほかの病気と大きく異なります。がんによる死は、必ず受け入れる準備が必要なのです。そこに、余命告知が広く普及した要因があります。

 一方、日本でも海外のように医療訴訟が増える傾向で、余命もその対象の一つ。告知した余命期間を全うせずに患者が亡くなると、医師は裁判に訴えられる恐れがあります。そうすると、どうなるかというと、余命は比較的短く告知されることがありうるのです。

 告知される余命は3カ月、6カ月、1年が一般的ですが、仮に6カ月だと判断されるようなケースでも、告知は3カ月になるかもしれません。それで、患者が“余命”を超えて延命したら、医師は家族から“名医”と喜ばれることはあれ、訴訟のリスクは確実に減るでしょう。

 実は若いころ、40代の進行した直腸がん患者に余命を告知した翌日、病室で首吊り自殺されたことがあります。今から思えば、医師としての未熟さが反省されます。ただし、患者や家族も余命を絶対視してはいけないことは間違いありません。

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