著者のコラム一覧
平山瑞穂小説家

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

起きたら全身不随状態 何が起きたのか全く分からなかった

公開日: 更新日:

 低血糖を起こし、しかも自分では対処しきれない状態になったとしても、妻などが身近にいれば、最悪の事態は回避することができる。

 しかし、たまたまそばに誰もいなかったとしたらどうなるのか。僕はそれもすでに経験している。

 わが家は共働きで、日中は僕が家に一人でいることが多い。その間は、食事も自分で作って片づける。ある日僕は、いつものように、食事の30分前に打つタイプのインスリンを打ってから、昼食の準備に取り掛かった。

 そこまではいい。キッチンで作業をしていた記憶も残っている。ところが気がつくと、僕はなぜか寝室のベッドに寝ていて、窓の外は真っ暗になっていた。

 何が起きたのかまったくわからなかった。起きようとしても、ほぼ全身が不随に近い状態になっている。激しい尿意を感じているのに膀胱(ぼうこう)をコントロールできず、大人になってから初めて失禁をした。ただなす術もなく、股間周辺が生暖かく濡れていくのに任せるしかなかった。

 どうやら低血糖で倒れたらしい、とようやく合点がいった僕は、身をよじってなんとかベッドをおり、かろうじて動く両腕だけを使って廊下を這っていった。そして冷蔵庫に常備してあるキットカットを払い落とし、むさぼり食った。包装を破る力さえ出ないので、歯で噛み切った。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…