鼻の通りを視覚化する技術を自前で開発 異色の医師に聞く

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 鼻詰まりに悩んだ末に、鼻の通りを良くする手術を受ける人は多い。しかし、ほとんどは医師任せだ。

 手術前に、鼻のどこの部分をどのように切ったり削ったりすることで空気の通りがどう良くなるか言葉で説明を受けるが、手術後に患者は確かめようがない。その現状を打破しようと、数千万円の開発費用を自前で捻出して、手術前後の鼻の中の空気の流れを立体映像化する装置を開発した耳鼻咽喉科専門医がいる。「あさま耳鼻咽喉科医院」(茨城県古河市)の浅間洋二院長だ。

「鼻の気流の詳細な流れは複雑怪奇で、長い間、未知の世界でした。中には市販の流体気流ソフトと汎用パソコンを使って鼻の気流を解析しようとした事例もありましたが、精度が悪く信頼性の低いものでした。そこで、私はこれを解明して鼻の手術に応用しようと決意。CT画像からコンピューター上に立体モデルを作り、鼻の中の空気の流れを東大宇宙研(JAXAの前身)と関わりの深い『計算流体力学研究所』に計算してもらうため資金を投入してソフトを共同開発したのです。その後、それを実用化するための科学技術計算用コンピューターも院内に設置しました」

 最近は、鼻や喉の奥を見る電子スコープや高解像度CTなどを使って「病気の見える化」を目指す耳鼻咽喉科医院は増えている。しかし、患者の鼻の中の気流の動きを流体力学で説明する耳鼻咽喉科医院は寡聞にして知らない。

■患者は手術の成果を目で確認すべき

 同医院ではこのシステムを使い、希望する患者に、手術前に鼻の中の気流の動きをコンピューターの画面上に3D画像で作り上げて説明するという。さらに手術後の理想の気流の動きをシミュレーションし、そのためにどのような手術をするかを検討。患者の同意を得て、手術した後は鼻の中の気流の動きがどのように変わったかを説明するという。

「患者さんは手術の効果がわかりやすいと言ってくださっていて好評です。そもそも鼻の手術は何度もできるわけではありません。その意味で手術前のシミュレーションがとても大事なのです。それなのに今まで、執刀医師の経験で培ってきた感覚で手術が行われてきたことに私は違和感がありました。私の狙いは手術の精度を上げ、患者さんの手術への理解を深めることはもちろんですが、こうした症例の蓄積は手術様式の発展ばかりでなく、人工知能搭載の手術マシンの研究などにも貢献できるのではないか、と考えています」

 実は浅間院長は早稲田大学理工学部土木工学科を卒業後、首都圏の私鉄に勤務。その後、秋田大学医学部に入り直した異色の経歴を持つ。今回はたまたま土木工学科で学んだ流体力学が耳鼻咽喉科の医師としての仕事に役立ったという。

「流体力学は土木工学科で学びますが、それを十分理解している人はそうはいませんし、学んだ人が医師になることは珍しい。ある意味、私以外はこうした問題に本格的に取り組む人はいないと思います」

 たかだか鼻詰まりくらいで、鼻の中の気流の状態を調べるのは過剰な診察ではないか、と思うかもしれない。しかし、これは認知症の予防につながる可能性もある。鼻の中の空気の流れが悪くなるとにおいを嗅ぐ力が落ちて記憶力が低下する可能性があるからだ。

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